筋萎縮性側索硬化症(ALS)を知る
意識は最後まで清明 ― 「動けない」けど「わかっている」病気
意識は最後まで清明 ― 「動けない」けど「わかっている」病気
ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)は、脳や脊髄にある運動ニューロン(運動神経細胞)が選択的・進行性に変性・脱落する神経変性疾患です。
上位運動ニューロン(大脳皮質→脊髄)と下位運動ニューロン(脊髄前角→筋肉)の両方が同時に障害されるのが最大の特徴。
原因は不明(孤発性が90〜95%)。根治療法はまだありません。
ALSは、脳から「動け!」と命令を出す神経が少しずつ死んでいく病気。だから筋肉に命令が届かなくなって、体が動かせなくなる。
大事なのは「動かす神経だけ」が壊れるってこと。感じる神経、考える脳、目を動かす神経は壊れない。だから意識はバッチリあるのに体が動かない、という状態になる。
原因はまだわかっていなくて、治す方法もまだない。日本に約1万人の患者さんがいます。
日本に約1万人。人口10万人あたり7〜11人。男性にやや多い(男女比 約1.3〜1.5:1)。
平均60〜65歳。50〜70代に多い。40代以下でも発症あり→特定疾病として重要。
発症から2〜5年(人工呼吸器なし)。TPPV使用で10年以上生存する例も。約10%が10年以上生存。
日本で約1万人。珍しい病気だけど、決して少なくはない。男性のほうがちょっと多い。
60代前後が一番多い。40代でもなることがあるから、介護保険の特定疾病に入ってる。
人工呼吸器なしだと2〜5年。でも呼吸器をつければ10年以上生きる人もたくさんいる。
体を動かす命令は、脳(上位)→ 脊髄(下位)→ 筋肉と2段階のリレーで伝わります。ALSではこの両方のニューロンが壊れるため、矛盾した症状が同時に出現します。
体を動かす命令は「脳(司令塔)→ 脊髄(中継所)→ 筋肉」のリレー。ALSは司令塔も中継所も両方壊れるから、二種類の症状が混ざって出てきます。
| 項目 | 上位運動ニューロン障害 | 下位運動ニューロン障害 |
|---|---|---|
| 場所 | 大脳皮質の運動野 | 脊髄前角細胞・脳幹運動核 |
| 筋緊張 | 痙縮(カチカチに硬い) | 弛緩(だらんとする) |
| 腱反射 | 亢進(過剰に反応) | 低下〜消失 |
| 筋萎縮 | 軽度(廃用性) | 著明(神経原性) |
| 特有の所見 | バビンスキー徴候(+) | 線維束性収縮(ピクつき) |
ALSは「上位と下位の両方が障害される」が正解。「上位のみ」「下位のみ」は不正解。痙縮と筋萎縮が混在するのがALSの特徴です。
手指の巧緻運動障害から。箸が使いにくい、ボタンが留められない、字が書きにくい。最も多いタイプ。
歩行障害・つまずきから。足が上がりにくい、階段が辛い。下肢の筋萎縮が進む。
構音障害・嚥下障害から。呂律が回らない、飲み込みにくい。予後が最も不良。舌の萎縮が見られる。
「箸が持ちにくい」「ボタンが留められない」から始まる一番多いパターン。
「つまずきやすい」「足が上がらない」から始まるパターン。
「しゃべりにくい」「飲み込みにくい」から。一番進みが早いので要注意。
片側の手足の筋力低下・筋萎縮。線維束性収縮(ピクつき)。日常生活はおおむね自立。この時点では診断がつかないことも。
四肢に進行。車椅子が必要に。構音障害・嚥下障害が出現。コミュニケーション障害。呼吸機能の低下。誤嚥性肺炎のリスク増大。
四肢の随意運動がほぼ不可能に。発声・嚥下不能。呼吸筋麻痺→人工呼吸器の検討。閉じ込め症候群に近い状態だが意識は完全に清明。
片方の手や足がちょっと弱い程度。まだ普通に生活できる。病院でもすぐに診断がつかないことがある。
両手足に広がる。車椅子が必要。しゃべりにくい、飲み込みにくい。呼吸も少しずつ辛くなる。
ほぼ全身が動かせない。声も出ない。飲み込めない。呼吸器が必要に。でも意識は完全にハッキリしている。
ALSでは運動ニューロンだけが壊れるため、以下の4つは最後まで保たれます。これがALSの介護を考える上で最も大切なポイントです。
ALSでは「動かす神経」だけが壊れる。だから以下の4つは壊れない。これを知ってるかどうかで介護の質が全然変わります。
痛覚・温度覚・触覚・深部感覚はすべて正常。体の痛みや不快感は感じる。→ 声かけ・配慮が必要。
目を動かす神経は保たれる。進行期でも眼球運動は可能。→ 透明文字盤・視線入力装置の根拠。
排尿・排便機能は保たれる。尿意・便意は正常。→ トイレ動作は介助が必要だが、排泄機能そのものは維持。
感覚が保たれ不快を訴えられる。自律神経機能も保たれ皮膚の栄養状態が維持。→ ただし「できない」ではなく「できにくい」。
痛い、暑い、冷たいは全部わかる。体が動かないだけで、感覚は全部ある。だから雑に扱うと痛いし不快。
目を動かす筋肉は最後まで使える。だから目でコミュニケーションが取れる。透明文字盤はこれが根拠。
排泄の機能自体は正常。トイレに行く「動作」ができないだけ。尿意・便意もちゃんとある。
感覚があるから「痛い」と訴えられるし、皮膚の状態も保たれる。ただし「絶対ならない」わけじゃない。
× 「感覚障害がある」→ ない。× 「尿失禁がみられる」→ 排泄機能は正常。× 「認知機能が低下する」→ 意識は清明。
覚え方:「ALS = 運動だけが障害される」
ALSに特異的な検査マーカーはなく、臨床症状+他疾患の除外で診断します。上位・下位両方の運動ニューロン障害所見があり、進行性であることが条件。
最重要の検査は針筋電図(下位運動ニューロン障害の客観的証拠)。MRIは他疾患の除外目的。感覚神経伝導速度は正常。
ALSだけで見つかる特別な検査値はない。「上位も下位も両方おかしい」「だんだん進行する」「他の病気じゃない」を確認して診断。
一番大事な検査は筋電図(筋肉に針を刺して電気の動きを調べる)。MRIは「他の病気じゃないよね?」の確認用。
根治療法は存在しませんが、進行を遅らせる薬が登場しています。
| 薬剤 | メカニズム | ポイント |
|---|---|---|
| リルゾール | グルタミン酸毒性を抑制 | 最初のALS治療薬(1999年)。生存を2〜3ヶ月延長。経口薬。 |
| エダラボン | 酸化ストレスを軽減 | 日本発の治療薬(2015年)。点滴 or 経口。早期に効果的。 |
| メコバラミン大量療法 | 超高用量ビタミンB12 | 2024年承認。発症1年以内に効果。日本独自。 |
| トフェルセン | SOD1遺伝子変異を抑制 | 遺伝性ALS限定(全体の約2%)。髄腔内投与。 |
ALSでは意識・知能・感覚が保たれるため、コミュニケーション支援は最も重要な介護課題の一つ。眼球運動が最後まで保たれることが、全ての代替手段の根拠です。
頭はハッキリしてるのに言葉が出ない。これは本人にとってものすごいストレス。だからコミュニケーション手段を途切れさせないことが超大事。目が動く限り、意思は伝えられます。
| 段階 | 状態 | 手段 |
|---|---|---|
| 初期 | 発話可能 | 通常の会話。疲労に配慮して短めに。 |
| 中期 | 構音障害 | 筆談、50音表、携帯型会話補助装置 |
| 進行期 | 発声・書字不能 | 透明文字盤(眼球運動で文字を指す) |
| 終末期 | 眼球運動のみ | 視線入力装置(PCに接続、視線で文字入力) |
① 透明なアクリル板に50音を配置
② 介護者が患者の正面に文字盤を持つ
③ 患者が伝えたい文字を見つめる
④ 介護者は文字盤越しに患者の視線を読み取る
⑤ 「あ行?か行?」→「あ?い?う?」と確認
透明な板に「あいうえお」が書いてある。それを患者さんの顔の前にかざして、患者さんがどの文字を見つめてるかを介護者が読み取る。
目が動く限り使えるから、ALSの代表的なコミュニケーション手段。国試にもよく出る!
・Yes/Noで答えられる質問を活用(まばたき1回=Yes、2回=No等)
・患者のペースに合わせ焦らせない
・推測で先回りしすぎない(本人の意思を確認する)
食形態:とろみ付け、ゼリー食、ペースト食。液体はむせやすいのでとろみ必須。
食事姿勢:頭部をやや前屈位(顎引き嚥下)。頸部後屈は誤嚥リスク増。
一口量:少量ずつ。小さめスプーン。十分な時間確保。
胃瘻(PEG):体重減少が著しい時、食事に1時間以上かかる時に検討。呼吸機能が落ちる前の早期造設を推奨。
観察ポイント:SpO2、呼吸数、努力呼吸。早朝の頭痛・日中の傾眠は呼吸機能低下のサイン。
NPPV(非侵襲的換気):マスクで呼吸補助。初期の導入。QOL改善+生存延長。
TPPV(気管切開下換気):24時間呼吸管理。生命予後を大幅延長。一度装着すると取り外しは困難。
排痰:体位ドレナージ、カフアシスト。吸引器の準備。
とろみをつけるのが基本。水やお茶はそのままだとむせやすい。
あごを引いて食べる(顎引き嚥下)。上を向くと気管に入りやすい。
食事が辛くなってきたら胃瘻(おなかに穴を開けて栄養を入れる)を検討。呼吸が弱くなる前に作るのが大事。
朝の頭痛や昼間の眠気が出たら呼吸が弱ってるサイン。
最初はマスク型の呼吸器(NPPV)。もっと進んだら気管切開して呼吸器(TPPV)をつける選択肢がある。
TPPVは一度つけると外すのが難しい。だから本人の意思確認がものすごく大事。
ALSの介護で最も倫理的に重要な領域。人工呼吸器装着、胃瘻造設、延命措置 ― これらは本人の人生の選択であり、家族や医療者が決めるものではありません。
日本のALS患者でTPPVを選択するのは約30%(欧米は5〜10%で、日本は国際的に高い)。一度装着すると取り外し(中止)は法的・倫理的に困難。装着しない選択も等しく尊重されます。
呼吸器をつけるかどうかは、命に関わる人生最大の決断。つければ長く生きられるけど、24時間介護が必要になる。つけなければ呼吸が止まったらそこまで。
どちらが正しいとかではない。本人が決めること。私たち介護者は、本人が納得して決められるように支えること。
・早期から意思確認を始める
・病状の変化に合わせ繰り返し確認
・TPPV後の生活を具体的に伝える
・多職種(医師・看護師・MSW・ケアマネ・介護福祉士)で支援
・家族の意向で本人の意思を無視する
・「つけるべき」「つけないべき」と誘導する
・一度の確認で決定とする(意思は変わりうる)
・情報を出さずに判断を迫る
・早めに話し始める(ギリギリだと冷静に考えられない)
・何度も確認する(気持ちは変わるもの)
・「呼吸器つけたらどんな生活になるか」を具体的に見せる
・チームで支える
・家族が勝手に決める
・「普通はこうですよ」と誘導する
・1回聞いて「はいOK」で終わり
・説明なしで「どうしますか?」
杖→歩行器→車椅子→リクライニング車椅子→ベッド上と段階的に変化。福祉用具を先回りで準備。
機械浴、シャワーチェアの活用。体温調節障害に注意。疲労に配慮し短時間で。
膀胱直腸障害はないが動作は介助が必要。ポータブルトイレ→おむつへ。尿意・便意は正常なのでタイミングを逃さない。
ナースコール(センサー式)。環境制御装置(テレビ・照明・エアコンを操作)。室温・湿度管理(痰の粘稠度に影響)。
だんだん歩けなくなるから、杖→歩行器→車椅子→ベッドと変わっていく。先を見越して福祉用具を準備するのが大事。
機械浴やシャワーチェアで。疲れやすいので短時間がポイント。
おしっこ・うんちの感覚はあるから、「行きたい」って思ったタイミングに合わせるのが大事。動作だけお手伝い。
センサー式のナースコール。視線や微弱な動きで家電を操作できる装置。部屋の湿度管理も大事(痰が固くなるから)。
過度な運動は逆効果(過用性筋力低下のリスク)。関節可動域訓練(拘縮予防)、嚥下リハ、呼吸リハが中心。「鍛える」ではなく「維持する」「悪化を遅らせる」が目的。
筋トレのようなガンガンやるリハビリは逆効果(使いすぎると余計に弱くなる)。関節が固まらないようにする運動や、飲み込み・呼吸の練習がメイン。
ALS患者は複数の制度を併用してサービスを受けることができます。介護保険だけでは足りない場合が多く、障害福祉サービスとの組み合わせが重要。
ALS患者は1つの制度だけじゃ足りないことが多い。3つの制度を組み合わせて使えます。
16の特定疾病の一つ。40〜64歳でも利用可能。訪問介護、訪問看護、福祉用具貸与、住宅改修など。
指定難病(告示番号2番)。医療費助成あり。自己負担上限は所得に応じて月額0〜30,000円。
重度訪問介護が特に重要。長時間サービスが可能で介護保険と併用できる。意思伝達装置の給付も。
ALSは「特定疾病」だから、40代でも介護保険が使える。ヘルパーさん、看護師さん、車椅子のレンタル等。
ALSは国の指定難病。医療費がかなり安くなる制度がある。所得に応じて自己負担の上限が決まる。
介護保険だけじゃ足りない分を補える。特に重度訪問介護(長時間ヘルパーが来てくれる)が大事。
・原則は介護保険が優先(65歳以上 or 特定疾病)
・足りない分を障害福祉サービスで上乗せ可能
・重度訪問介護は介護保険にない独自サービス → 併用OK
1. 意識は最後まで清明。目の前の患者はすべてを理解している。
2. 4大陰性徴候を理解し、「何ができて何ができないか」を正確に把握する。
3. コミュニケーション手段を途切れさせない。段階的な代替手段を早めに準備。
4. 本人の意思決定を支援する。TPPV装着の選択は人生最大の決断。
5. 多職種連携が不可欠。医師・看護師・PT/OT/ST・MSW・ケアマネ・介護福祉士のチーム。
6. 家族支援も忘れない。24時間介護の負担は膨大。レスパイトケアの活用。
7. 制度の知識を持ち、利用可能なサービスを最大限活用できるよう支援する。
1. 頭はクリア。「わかってない」と思って接するのは最悪。全部わかってる。
2. 感覚あり・目は動く・排泄OK・褥瘡なりにくい。この4つ。
3. 話せなくなっても意思は伝えられる。透明文字盤、視線入力。
4. 呼吸器の選択は本人が決める。私たちは支える側。
5. 一人で抱えない。チームで関わる。家族のケアも。
6. リハビリはやりすぎ注意。「鍛える」じゃなくて「維持する」。
7. 制度をフル活用。介護保険+難病法+障害福祉サービスの3本柱。
「ALS = 運動だけが障害される」
動けなくなる → ○ / 感じなくなる → × / 考えられなくなる → × / 目が動かなくなる → × / 排泄機能がなくなる → ×