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筋萎縮性側索硬化症(ALS)を知る

意識は最後まで清明 ― 「動けない」けど「わかっている」病気

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女神アテナ
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ALSってどんな病気?

🧠 運動ニューロンだけが壊れていく病気

ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)は、脳や脊髄にある運動ニューロン(運動神経細胞)が選択的・進行性に変性・脱落する神経変性疾患です。

上位運動ニューロン(大脳皮質→脊髄)と下位運動ニューロン(脊髄前角→筋肉)の両方が同時に障害されるのが最大の特徴。

原因は不明(孤発性が90〜95%)。根治療法はまだありません。

🧠 「体を動かす神経」だけが壊れる病気

ALSは、脳から「動け!」と命令を出す神経が少しずつ死んでいく病気。だから筋肉に命令が届かなくなって、体が動かせなくなる。

大事なのは「動かす神経だけ」が壊れるってこと。感じる神経、考える脳、目を動かす神経は壊れない。だから意識はバッチリあるのに体が動かない、という状態になる。

原因はまだわかっていなくて、治す方法もまだない。日本に約1万人の患者さんがいます。

📊 患者数

日本に約1万人。人口10万人あたり7〜11人。男性にやや多い(男女比 約1.3〜1.5:1)。

🎂 発症年齢

平均60〜65歳。50〜70代に多い。40代以下でも発症あり→特定疾病として重要。

⏱️ 経過

発症から2〜5年(人工呼吸器なし)。TPPV使用で10年以上生存する例も。約10%が10年以上生存。

📊 どのくらいいるの?

日本で約1万人。珍しい病気だけど、決して少なくはない。男性のほうがちょっと多い。

🎂 いつなるの?

60代前後が一番多い。40代でもなることがあるから、介護保険の特定疾病に入ってる。

⏱️ どのくらい生きられる?

人工呼吸器なしだと2〜5年。でも呼吸器をつければ10年以上生きる人もたくさんいる。

上位と下位、2つの運動ニューロン

ALSでは両方が同時に壊れる

体を動かす命令は、脳(上位)→ 脊髄(下位)→ 筋肉と2段階のリレーで伝わります。ALSではこの両方のニューロンが壊れるため、矛盾した症状が同時に出現します。

司令塔も中継所も両方ダメになる

体を動かす命令は「脳(司令塔)→ 脊髄(中継所)→ 筋肉」のリレー。ALSは司令塔も中継所も両方壊れるから、二種類の症状が混ざって出てきます。

項目上位運動ニューロン障害下位運動ニューロン障害
場所大脳皮質の運動野脊髄前角細胞・脳幹運動核
筋緊張痙縮(カチカチに硬い)弛緩(だらんとする)
腱反射亢進(過剰に反応)低下〜消失
筋萎縮軽度(廃用性)著明(神経原性)
特有の所見バビンスキー徴候(+)線維束性収縮(ピクつき)

📝 国試ポイント

ALSは「上位下位の両方が障害される」が正解。「上位のみ」「下位のみ」は不正解。痙縮と筋萎縮が混在するのがALSの特徴です。

どこから始まり、どう進む?

🤚 上肢型(約50%)

手指の巧緻運動障害から。箸が使いにくい、ボタンが留められない、字が書きにくい。最も多いタイプ。

🦵 下肢型(約25%)

歩行障害・つまずきから。足が上がりにくい、階段が辛い。下肢の筋萎縮が進む。

👄 球麻痺型(約25%)

構音障害・嚥下障害から。呂律が回らない、飲み込みにくい。予後が最も不良。舌の萎縮が見られる。

🤚 手から始まるタイプ(半分)

「箸が持ちにくい」「ボタンが留められない」から始まる一番多いパターン。

🦵 足から始まるタイプ(1/4)

「つまずきやすい」「足が上がらない」から始まるパターン。

👄 のどから始まるタイプ(1/4)

「しゃべりにくい」「飲み込みにくい」から。一番進みが早いので要注意。

📈 進行の流れ

初期(〜1年)

片側の手足の筋力低下・筋萎縮。線維束性収縮(ピクつき)。日常生活はおおむね自立。この時点では診断がつかないことも。

中期(1〜3年)

四肢に進行。車椅子が必要に。構音障害・嚥下障害が出現。コミュニケーション障害。呼吸機能の低下。誤嚥性肺炎のリスク増大。

進行期〜終末期(3〜5年)

四肢の随意運動がほぼ不可能に。発声・嚥下不能。呼吸筋麻痺→人工呼吸器の検討。閉じ込め症候群に近い状態だが意識は完全に清明。

📈 だんだんこうなっていく

初期 ―「あれ、おかしいな?」

片方の手や足がちょっと弱い程度。まだ普通に生活できる。病院でもすぐに診断がつかないことがある。

中期 ―「生活に支障が出てくる」

両手足に広がる。車椅子が必要。しゃべりにくい、飲み込みにくい。呼吸も少しずつ辛くなる。

進行期 ―「頭はクリアなのに体が動かない」

ほぼ全身が動かせない。声も出ない。飲み込めない。呼吸器が必要に。でも意識は完全にハッキリしている

4大陰性徴候 ― ALSで侵されないもの

🎯 国試最頻出!必ず覚える4つ

ALSでは運動ニューロンだけが壊れるため、以下の4つは最後まで保たれます。これがALSの介護を考える上で最も大切なポイントです。

🎯 これだけは絶対覚えて!

ALSでは「動かす神経」だけが壊れる。だから以下の4つは壊れない。これを知ってるかどうかで介護の質が全然変わります。

1. 感覚障害なし

痛覚・温度覚・触覚・深部感覚はすべて正常。体の痛みや不快感は感じる。→ 声かけ・配慮が必要。

2. 眼球運動障害なし

目を動かす神経は保たれる。進行期でも眼球運動は可能。→ 透明文字盤・視線入力装置の根拠。

3. 膀胱直腸障害なし

排尿・排便機能は保たれる。尿意・便意は正常。→ トイレ動作は介助が必要だが、排泄機能そのものは維持。

4. 褥瘡ができにくい

感覚が保たれ不快を訴えられる。自律神経機能も保たれ皮膚の栄養状態が維持。→ ただし「できない」ではなく「できにくい」。

1. 感覚は正常

痛い、暑い、冷たいは全部わかる。体が動かないだけで、感覚は全部ある。だから雑に扱うと痛いし不快。

2. 目は動く

目を動かす筋肉は最後まで使える。だから目でコミュニケーションが取れる。透明文字盤はこれが根拠。

3. おしっこ・うんちは出る

排泄の機能自体は正常。トイレに行く「動作」ができないだけ。尿意・便意もちゃんとある。

4. 床ずれになりにくい

感覚があるから「痛い」と訴えられるし、皮膚の状態も保たれる。ただし「絶対ならない」わけじゃない。

📝 国試の引っかけパターン

× 「感覚障害がある」→ ない。× 「尿失禁がみられる」→ 排泄機能は正常。× 「認知機能が低下する」→ 意識は清明
覚え方:「ALS = 運動だけが障害される」

どう見つけて、どう治療する?

🔍 診断 ― 「除外」が基本

ALSに特異的な検査マーカーはなく、臨床症状+他疾患の除外で診断します。上位・下位両方の運動ニューロン障害所見があり、進行性であることが条件。

最重要の検査は針筋電図(下位運動ニューロン障害の客観的証拠)。MRIは他疾患の除外目的。感覚神経伝導速度は正常。

🔍 診断 ― 「これじゃない」を消していく

ALSだけで見つかる特別な検査値はない。「上位も下位も両方おかしい」「だんだん進行する」「他の病気じゃない」を確認して診断。

一番大事な検査は筋電図(筋肉に針を刺して電気の動きを調べる)。MRIは「他の病気じゃないよね?」の確認用。

💊 薬物療法 ― 進行を遅らせる

根治療法は存在しませんが、進行を遅らせる薬が登場しています。

💊 完治はできないけど、進行を遅らせる薬がある

薬剤メカニズムポイント
リルゾールグルタミン酸毒性を抑制最初のALS治療薬(1999年)。生存を2〜3ヶ月延長。経口薬。
エダラボン酸化ストレスを軽減日本発の治療薬(2015年)。点滴 or 経口。早期に効果的。
メコバラミン大量療法超高用量ビタミンB122024年承認。発症1年以内に効果。日本独自
トフェルセンSOD1遺伝子変異を抑制遺伝性ALS限定(全体の約2%)。髄腔内投与。

「伝えたい」を絶やさない

💬 進行段階に応じた手段

ALSでは意識・知能・感覚が保たれるため、コミュニケーション支援は最も重要な介護課題の一つ。眼球運動が最後まで保たれることが、全ての代替手段の根拠です。

💬 話せなくなっても「伝える方法」はある

頭はハッキリしてるのに言葉が出ない。これは本人にとってものすごいストレス。だからコミュニケーション手段を途切れさせないことが超大事。目が動く限り、意思は伝えられます。

段階状態手段
初期発話可能通常の会話。疲労に配慮して短めに。
中期構音障害筆談、50音表、携帯型会話補助装置
進行期発声・書字不能透明文字盤(眼球運動で文字を指す)
終末期眼球運動のみ視線入力装置(PCに接続、視線で文字入力)

🔎 透明文字盤の使い方(国試出題あり)

① 透明なアクリル板に50音を配置
② 介護者が患者の正面に文字盤を持つ
③ 患者が伝えたい文字を見つめる
④ 介護者は文字盤越しに患者の視線を読み取る
⑤ 「あ行?か行?」→「あ?い?う?」と確認

🔎 透明文字盤って何?

透明な板に「あいうえお」が書いてある。それを患者さんの顔の前にかざして、患者さんがどの文字を見つめてるかを介護者が読み取る。
目が動く限り使えるから、ALSの代表的なコミュニケーション手段。国試にもよく出る!

📝 介護の姿勢

・Yes/Noで答えられる質問を活用(まばたき1回=Yes、2回=No等)
・患者のペースに合わせ焦らせない
・推測で先回りしすぎない(本人の意思を確認する)

「食べる」と「息する」を支える

🍽️ 嚥下障害への対応

食形態:とろみ付け、ゼリー食、ペースト食。液体はむせやすいのでとろみ必須。

食事姿勢:頭部をやや前屈位(顎引き嚥下)。頸部後屈は誤嚥リスク増

一口量:少量ずつ。小さめスプーン。十分な時間確保。

胃瘻(PEG):体重減少が著しい時、食事に1時間以上かかる時に検討。呼吸機能が落ちる前の早期造設を推奨

🫁 呼吸管理

観察ポイント:SpO2、呼吸数、努力呼吸。早朝の頭痛・日中の傾眠は呼吸機能低下のサイン。

NPPV(非侵襲的換気):マスクで呼吸補助。初期の導入。QOL改善+生存延長。

TPPV(気管切開下換気):24時間呼吸管理。生命予後を大幅延長。一度装着すると取り外しは困難。

排痰:体位ドレナージ、カフアシスト。吸引器の準備。

🍽️ 飲み込みが難しくなったら

とろみをつけるのが基本。水やお茶はそのままだとむせやすい。

あごを引いて食べる(顎引き嚥下)。上を向くと気管に入りやすい。

食事が辛くなってきたら胃瘻(おなかに穴を開けて栄養を入れる)を検討。呼吸が弱くなる前に作るのが大事。

🫁 呼吸のサポート

朝の頭痛や昼間の眠気が出たら呼吸が弱ってるサイン。

最初はマスク型の呼吸器(NPPV)。もっと進んだら気管切開して呼吸器(TPPV)をつける選択肢がある。

TPPVは一度つけると外すのが難しい。だから本人の意思確認がものすごく大事

人生最大の選択を支える(ACP)

🤝 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)

ALSの介護で最も倫理的に重要な領域。人工呼吸器装着、胃瘻造設、延命措置 ― これらは本人の人生の選択であり、家族や医療者が決めるものではありません。

日本のALS患者でTPPVを選択するのは約30%(欧米は5〜10%で、日本は国際的に高い)。一度装着すると取り外し(中止)は法的・倫理的に困難。装着しない選択も等しく尊重されます。

🤝 「どう生きるか」を一緒に考える

呼吸器をつけるかどうかは、命に関わる人生最大の決断。つければ長く生きられるけど、24時間介護が必要になる。つけなければ呼吸が止まったらそこまで。

どちらが正しいとかではない。本人が決めること。私たち介護者は、本人が納得して決められるように支えること。

✅ やるべきこと

早期から意思確認を始める
・病状の変化に合わせ繰り返し確認
・TPPV後の生活を具体的に伝える
多職種(医師・看護師・MSW・ケアマネ・介護福祉士)で支援

❌ してはいけないこと

・家族の意向で本人の意思を無視する
・「つけるべき」「つけないべき」と誘導する
・一度の確認で決定とする(意思は変わりうる)
・情報を出さずに判断を迫る

✅ 大事なこと

・早めに話し始める(ギリギリだと冷静に考えられない)
・何度も確認する(気持ちは変わるもの)
・「呼吸器つけたらどんな生活になるか」を具体的に見せる
・チームで支える

❌ やっちゃダメなこと

・家族が勝手に決める
・「普通はこうですよ」と誘導する
・1回聞いて「はいOK」で終わり
・説明なしで「どうしますか?」

毎日の生活を支える介護のポイント

🚶 移動

杖→歩行器→車椅子→リクライニング車椅子→ベッド上と段階的に変化。福祉用具を先回りで準備。

🛁 入浴

機械浴、シャワーチェアの活用。体温調節障害に注意。疲労に配慮し短時間で。

🚽 排泄

膀胱直腸障害はないが動作は介助が必要。ポータブルトイレ→おむつへ。尿意・便意は正常なのでタイミングを逃さない

🏠 環境整備

ナースコール(センサー式)。環境制御装置(テレビ・照明・エアコンを操作)。室温・湿度管理(痰の粘稠度に影響)。

🚶 移動のサポート

だんだん歩けなくなるから、杖→歩行器→車椅子→ベッドと変わっていく。先を見越して福祉用具を準備するのが大事。

🛁 お風呂

機械浴やシャワーチェアで。疲れやすいので短時間がポイント。

🚽 トイレ

おしっこ・うんちの感覚はあるから、「行きたい」って思ったタイミングに合わせるのが大事。動作だけお手伝い。

🏠 住まいの工夫

センサー式のナースコール。視線や微弱な動きで家電を操作できる装置。部屋の湿度管理も大事(痰が固くなるから)。

💪 リハビリテーションの注意

過度な運動は逆効果(過用性筋力低下のリスク)。関節可動域訓練(拘縮予防)、嚥下リハ、呼吸リハが中心。「鍛える」ではなく「維持する」「悪化を遅らせる」が目的。

💪 リハビリは「ほどほど」が正解

筋トレのようなガンガンやるリハビリは逆効果(使いすぎると余計に弱くなる)。関節が固まらないようにする運動や、飲み込み・呼吸の練習がメイン。

使える制度を知る

📋 ALSに関わる3つの制度

ALS患者は複数の制度を併用してサービスを受けることができます。介護保険だけでは足りない場合が多く、障害福祉サービスとの組み合わせが重要。

📋 3つの制度が味方になる

ALS患者は1つの制度だけじゃ足りないことが多い。3つの制度を組み合わせて使えます。

🏥 介護保険(特定疾病)

16の特定疾病の一つ。40〜64歳でも利用可能。訪問介護、訪問看護、福祉用具貸与、住宅改修など。

🏛️ 難病法(指定難病)

指定難病(告示番号2番)。医療費助成あり。自己負担上限は所得に応じて月額0〜30,000円。

♿ 障害者総合支援法

重度訪問介護が特に重要。長時間サービスが可能で介護保険と併用できる。意思伝達装置の給付も。

🏥 介護保険

ALSは「特定疾病」だから、40代でも介護保険が使える。ヘルパーさん、看護師さん、車椅子のレンタル等。

🏛️ 難病法

ALSは国の指定難病。医療費がかなり安くなる制度がある。所得に応じて自己負担の上限が決まる。

♿ 障害福祉サービス

介護保険だけじゃ足りない分を補える。特に重度訪問介護(長時間ヘルパーが来てくれる)が大事。

📝 国試ポイント:制度の併用

・原則は介護保険が優先(65歳以上 or 特定疾病)
・足りない分を障害福祉サービスで上乗せ可能
重度訪問介護は介護保険にない独自サービス → 併用OK

ALSの介護で忘れてはいけないこと

🌟 7つの心得

1. 意識は最後まで清明。目の前の患者はすべてを理解している。

2. 4大陰性徴候を理解し、「何ができて何ができないか」を正確に把握する。

3. コミュニケーション手段を途切れさせない。段階的な代替手段を早めに準備。

4. 本人の意思決定を支援する。TPPV装着の選択は人生最大の決断。

5. 多職種連携が不可欠。医師・看護師・PT/OT/ST・MSW・ケアマネ・介護福祉士のチーム。

6. 家族支援も忘れない。24時間介護の負担は膨大。レスパイトケアの活用。

7. 制度の知識を持ち、利用可能なサービスを最大限活用できるよう支援する。

🌟 これだけは覚えて帰って

1. 頭はクリア。「わかってない」と思って接するのは最悪。全部わかってる。

2. 感覚あり・目は動く・排泄OK・褥瘡なりにくい。この4つ。

3. 話せなくなっても意思は伝えられる。透明文字盤、視線入力。

4. 呼吸器の選択は本人が決める。私たちは支える側。

5. 一人で抱えない。チームで関わる。家族のケアも。

6. リハビリはやりすぎ注意。「鍛える」じゃなくて「維持する」。

7. 制度をフル活用。介護保険+難病法+障害福祉サービスの3本柱。

🎯 国試対策の鉄則

「ALS = 運動だけが障害される」

動けなくなる → ○ / 感じなくなる → × / 考えられなくなる → × / 目が動かなくなる → × / 排泄機能がなくなる → ×

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