がん(末期)を知る
日本人の2人に1人がかかり、死因の第1位 ― 「治す」から「穏やかに生きる」へ。最後の数週間を支える介護
日本人の2人に1人がかかり、死因の第1位 ― 「治す」から「穏やかに生きる」へ。最後の数週間を支える介護
がん(悪性腫瘍)は、遺伝子の傷が積み重なった細胞が体の制御を無視して増え続け、周囲の組織に浸潤し、血液やリンパの流れに乗って遠隔転移する病気です。日本では1981年以降ずっと死因の第1位で、年間およそ38万人ががんで亡くなっています。
介護保険法施行令が定める特定疾病の第1号は「がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)」。つまり治癒が望めない段階に入ったがんを指し、俗に「がん末期」と呼ばれます。2006年4月の追加で特定疾病は16種類になりました。
なお、2010年の厚生労働省の事務連絡以降、要介護認定の申請書には「がん」と記載すれば足り、「末期」と明記する必要はない運用になっています。「末期」という言葉を本人・家族に突きつけずに申請できる配慮です。
体の細胞って、必要な分だけコピーして、必要なくなったら止まるようにできてる。がんは「止まるボタン」が壊れたコピー機。紙が床にあふれても止まらないし、隣の部屋(周りの組織)にまで紙が押し寄せて、しまいには配送トラック(血液・リンパ)に乗って遠くの部屋にまで散らばる。これが転移。
で、介護保険でいう「がん(末期)」は、お医者さんが「もう治す方向の治療では戻せない」と判断した段階のこと。ここから先は「がんを消す」のではなく「痛くない・苦しくない・その人らしい毎日」を守るのが目標になる。
ちなみに申請書には「がん」とだけ書けばいい。「末期」って書かなくていいルールになってる。本人が申請書を見ることもあるからね。
日本人が生涯でがんと診断される確率は約2人に1人(男性は約6割、女性は約5割)。がんで亡くなる確率は約4人に1人。誰にとっても「他人事」ではない。
介護保険は本来65歳から。だが特定疾病に該当すれば40〜64歳の第2号被保険者も申請できる。働き盛りのがん患者が在宅で介護保険を使うための入口。
がん患者の多くは病院で亡くなるが、「最期は自宅で」を望む人は多いとされる。在宅看取りを支えるのが訪問診療・訪問看護・介護職のチーム。
2人に1人がかかって、4人に1人がこれで亡くなる。教科書の話じゃなくて、自分と家族と利用者さん全員の話。
普通は65歳からの介護保険が、がん末期なら40歳から使える。50代でがんになって家に帰りたい、という人の命綱。
病院で亡くなる人が多いけど、「最期は家で」って願う人はすごく多い。それを叶えるのが在宅チーム。介護職はその主力メンバー。
・がんは日本人の死因第1位(1981年〜)
・特定疾病の条文は「回復の見込みがない状態に至ったと医師が判断したもの」(「余命○か月」という条件はない)
・40〜64歳(第2号被保険者)も、がん末期なら介護保険を申請できる
・特定疾病は16種類(がん末期は2006年に追加)
がんの治療には手術・薬物療法・放射線治療がありますが、転移が広がり治療効果が期待できなくなると、治癒を目指す治療から、苦痛を和らげる緩和ケア中心に軸足が移ります。この段階が「末期」です。医師は予後(残された時間)を「月単位」「週単位」「日単位」という区切りで見立てます。
がん患者のADL(日常生活動作)には特有の経過があります。Lynnらが示した「疾患軌道図」によれば、がんは亡くなる直前まで比較的ADLが保たれ、最後の1〜2か月で急激に低下します。心不全などの臓器不全は「悪化と回復を繰り返しながら下がる」、認知症・老衰は「長い時間をかけて緩やかに下がる」経過をたどるのと対照的です。
末期って「もう治療は何もしない」って意味じゃない。「がんを消す治療」から「つらさを消す治療」に切り替えるってこと。お医者さんは「あと何か月くらい」「あと何週間くらい」「あと何日くらい」という単位で見立てを立てる。
ここで超大事なのが、がんの人の体力の落ち方は「崖」だということ。先月まで自分で歩いてトイレに行ってた人が、今月は寝たきり、来週には…ということが本当に起こる。心臓病は「階段」(悪くなって少し戻ってまた悪くなる)、老衰は「坂道」(何年もかけてゆっくり)。がんだけ落ち方が別物。
だから「まだ元気そうだから介護保険はもう少し後で」は最悪の判断。元気に見える今のうちに申請しておかないと、ベッドが届く前に間に合わなくなる。
厚生労働省は末期がん患者について要介護認定の迅速化(認定調査の優先実施、主治医意見書の早期提出、暫定ケアプランでの認定前サービス開始)を求めています。介護保険は申請日にさかのぼって給付されるため、「認定結果を待ってからベッドを借りる」必要はありません。状態が急変したら区分変更申請も速やかに。
・がん末期の予後は「月単位・週単位・日単位」で見立てる
・がんのADLは終末期に急激に低下する(認知症・老衰は緩やか)
・要介護認定は申請日にさかのぼって効力が生じる → 暫定ケアプランでサービス開始可
・状態変化には区分変更申請
がん末期の症状は原発巣や転移先によって異なりますが、多くの患者に共通して現れるものがあります。特に倦怠感・食欲不振・疼痛・呼吸困難は頻度が高く、終末期にはせん妄も高い割合で見られるとされます。介護職は「どの症状が今の一番のつらさか」を観察し、看護師・医師へ伝える役割を担います。
がんが進むと、体はずっと小さな火事が消えない家みたいになる。エネルギーは火消しに全部持っていかれるから、何もしてなくてもクタクタ(倦怠感)。食欲もなくなる。火事の煙が胸にたまれば息が苦しい。痛みはがんが骨や神経を押してるサイン。
介護職の仕事は消火(治療)じゃなくて、「今どこが一番つらそうか」を誰よりも早く見つけて看護師さんに伝えること。一番長く一緒にいるのは介護職だからね。
せん妄:急に始まり、1日の中で変動し(夕方〜夜に悪化)、注意力が散漫になる。原因(薬・脱水・感染・便秘・痛み・環境変化)を取り除けば改善しうる。
認知症:ゆっくり進み、日内変動は小さく、意識は清明。
終末期のせん妄は「いつもと違う」と最初に気づくのが介護職。その日のうちに看護師へ。
WHO(世界保健機関)は1986年に「がん疼痛治療法」を発表し、痛みの強さに応じて鎮痛薬を選ぶ3段階除痛ラダーと、投与の原則を示しました。適切に行えばがんの痛みの大部分は緩和できるとされます。2018年の改訂では「ラダーは目安であり、痛みの強さに応じて最初から強オピオイドを使ってよい」と柔軟化されました。
日本では日本緩和医療学会の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」が実践の基準です。鎮痛薬に加えて、神経の痛みには鎮痛補助薬(抗けいれん薬・抗うつ薬・ステロイドなど)を組み合わせます。
がんの痛みの治療は、階段を1段ずつ上るイメージ。軽い痛みなら市販でもある系の痛み止め(1段目)、効かなければ弱めの麻薬(2段目)、それでもダメなら本格的な医療用麻薬(3段目)。最近は「最初から強い痛みなら3段目から始めていいよ」ってルールに変わった。痛みに階段を合わせるんであって、階段に痛みを合わせるんじゃない。
ポイントは「痛くなってから飲む」じゃなくて「時計で飲む」こと。痛みは一度燃え上がると消すのが大変。だから火が小さいうちに、決まった時間に薬で押さえ続ける。それでも突然燃え上がったら「レスキュー」っていう即効薬で消火する。
非オピオイド鎮痛薬
アセトアミノフェン
NSAIDs(ロキソプロフェン等)
± 鎮痛補助薬
弱オピオイド
コデイン、トラマドール
(+非オピオイド)
± 鎮痛補助薬
※現在は省略して3へ進むことも
強オピオイド
モルヒネ、オキシコドン
フェンタニル(貼付剤)
ヒドロモルフォン など
(+非オピオイド)
± 鎮痛補助薬
・by mouth:できるだけ経口で
・by the clock:時刻を決めて規則正しく
・by the ladder:ラダーに沿って
・for the individual:その人に合わせた量で
・attention to detail:細かい配慮を(副作用対策、説明)
※2018年改訂で「by the ladder」は外れ、4原則が中心に
定時薬で抑えきれない突出痛に対し、速放性のオピオイドを追加で使う。目安は1日総量の1/6程度。レスキューの回数が増えたら定時薬の増量の合図。「何時に、どんな痛みで、何回使ったか」の記録が医師の判断材料になる。
・口から飲むのが基本(注射は最後の手段)
・時計で飲む(痛くなってからじゃ遅い)
・その人に合った量(決まった上限はない。効くまで増やせる)
・細かい気配り(副作用の先回り、ちゃんと説明)
定時の薬が「スプリンクラー」なら、レスキューは「手持ちの消火器」。急にボッと燃え上がった痛みにすぐ使う。消火器を1日に何回も使うようなら、スプリンクラー(定時薬)を強くする合図。「何回使ったか」を記録しておくとお医者さんが超助かる。
・依存症(中毒)になる? → 痛みのある患者が医師の指示どおり使う限り、精神依存は極めてまれ。痛みが薬の作用を「受け止める」ため、いわゆる「ハイ」にはならない。
・寿命が縮む? → 適切な量では縮めない。むしろ痛みが取れて睡眠・食事・活動が改善する。
・最後の手段? → 違う。痛みの強さで決めるもので、「麻薬を使う=もう終わり」ではない。
・効かなくなる? → 病状進行で増量が必要になることはあるが、それは「効かなくなった」のではなく痛みが増えたため。
・WHO方式がん疼痛治療法:3段階除痛ラダー、by mouth / by the clock / for the individual / attention to detail
・強オピオイド=モルヒネ・オキシコドン・フェンタニルなど。医療用麻薬は正しく使えば依存にならない
・突出痛にはレスキュー薬(速放性製剤)
・介護福祉士は薬の量を決めない。役割は痛みのサインの観察・記録・報告(NRS、フェイススケール、表情・体動・食事量・睡眠)
オピオイド(医療用麻薬)の主な副作用は便秘・悪心嘔吐・眠気です。このうち便秘はほぼ必発で、使い続けても耐性ができないため、オピオイド開始と同時に下剤を予防的に併用するのが原則です。悪心と眠気は開始後や増量後の数日〜2週間ほどで多くが自然に軽くなります(耐性が形成される)。
介護職は毎日の排便回数・便の性状、食事摂取、日中の覚醒状態、呼吸の様子を記録し、変化があれば看護師に伝えます。まれですが、呼吸数が著しく減る(1分間に8回以下など)、呼びかけへの反応が極端に鈍い場合は過量の可能性があり、緊急連絡が必要です。
医療用麻薬は、腸の動きにブレーキをかける。腸って食べ物を運ぶベルトコンベアなんだけど、これがスローモードになって水分がどんどん吸われて、カチカチの便になる。しかも「慣れて治る」ことがない。だから麻薬を始めた日から下剤もセットで始めるのが常識。「便秘になってから」じゃ遅い。
吐き気と眠気は最初の1〜2週間がピークで、体が慣れてくると落ち着く。だから「飲み始めに少し眠そう」は想定内。でも「呼んでも起きない」「息の回数がすごく少ない」は想定外。これは今すぐ看護師さん。
| 副作用 | 頻度・経過 | 対策 | 介護職の観察ポイント |
|---|---|---|---|
| 便秘 | ほぼ必発。耐性ができず、使用中ずっと続く | 開始時から下剤を予防投与(酸化マグネシウム、センノシド、ナルデメジン等)。水分・食物繊維・腹部マッサージ | 排便回数・便の硬さ・腹部の張り・食欲低下・吐き気(便秘が原因のことも) |
| 悪心・嘔吐 | 開始・増量時の初期に約3〜6割。1〜2週で耐性 | 制吐薬の併用。少量・冷たい・匂いの少ない食事 | 食事のときの様子、吐き気の訴え、水分がとれているか |
| 眠気 | 開始・増量時の初期。数日で軽減することが多い | 多くは経過観察。強ければ減量・薬剤変更(オピオイドスイッチ) | 日中の覚醒度、会話の反応、転倒リスク |
| 呼吸抑制 | 適正使用ではまれ | 過量時は減量・中止。拮抗薬(ナロキソン) | 呼吸数の著しい減少・強い傾眠・呼びかけ無反応 → 緊急連絡 |
| その他 | 口渇、掻痒感、排尿困難、せん妄、ミオクローヌス(筋のぴくつき) | 原因薬剤の調整 | 口の乾き、かゆみの訴え、尿が出にくい、夜間の混乱 |
・オピオイドの副作用で最も多く、耐性が生じないのは便秘 → 下剤の予防的併用
・悪心・眠気は初期に多く、耐性が生じて軽くなる
・呼吸抑制は適正使用ではまれ。「医療用麻薬は危険だから使わない方がよい」は誤り
・貼付剤(フェンタニル)は貼り替え日時・部位の記録、熱(電気毛布・カイロ・入浴)で吸収が増えることに注意
がんが進行すると、腫瘍が出す炎症性サイトカインによって代謝が異常になり、十分に食べても筋肉と脂肪が分解されていく状態になります。これががん悪液質(カヘキシア)です。終末期の「不応性悪液質」では、栄養を補給しても体重や体力は回復しないとされ、無理な栄養補給はかえって負担になります。
この段階の食事の目的は「栄養を満たす」ことから「食べる楽しみ・満足感を保つ」ことに変わります。少量ずつ、本人の好きなものを、食べたいときに。口腔ケアで口の中を清潔・しっとりに保つことは、食べる意欲と誤嚥性肺炎予防の両方に効きます。
末期のがんの体は、底に穴が開いた燃料タンク。上からいくら注いでも下から漏れる(体ががん由来の物質のせいで筋肉や脂肪を勝手に燃やしちゃう)。だから「たくさん食べれば元気になる」が通用しない。ここが家族にとって一番受け入れにくいところ。
じゃあ食事に意味がないかというと逆で、「量」から「楽しみ」に目的が変わるだけ。一口のアイス、好きだったお酒をひと舐め、昔なじみの味噌汁の香り。それで「おいしい」って言えたら、その食事は満点。あと口の中をきれいにしておくのは超大事。口がネバネバ・カラカラだと何もおいしくない。
・少量・頻回。1回量を減らし、食べたいタイミングを逃さない
・好きなもの優先。栄養バランスよりも「食べたい」を尊重
・冷たいもの・のどごしのよいもの(アイス、ゼリー、果物、そうめん)は受け入れられやすい
・匂いに配慮(吐き気を誘発しやすい)
・口腔ケア:食前に口を湿らせ、食後に清掃。保湿剤の活用
・嚥下機能低下時はとろみ・姿勢調整。むせる場合は無理をしない
「食べないと弱ってしまう」「点滴をしてほしい」という家族の願いは愛情の表現です。否定せず、まず気持ちを受け止めたうえで、医師・看護師から「今の体は栄養を受け取れない状態であること」「輸液を増やすと浮腫・腹水・喘鳴が悪化しうること」を説明してもらいます。介護職は説明の場をつなぐ役であり、医学的判断を自分で伝える立場ではありません。
・ちょっとずつ、何回でも。「今食べたい」を逃さない
・好きなもの最優先。栄養士の理想より本人の「これがいい」
・冷たい・つるっとしたもの(アイス、ゼリー、すいか)は鉄板
・匂いに注意。焼き魚の匂いで吐き気が来ることもある
・口の中をきれいに、しっとりに。これだけで食べられることがある
・むせたら無理しない。「一口でも食べられた」で花丸
家族が「食べないなら点滴を」って言うのは、愛してるから。それを「意味ないですよ」なんて絶対言わない。「ご心配ですよね」と受け止めて、説明はお医者さん・看護師さんにつなぐ。乾いた土にジョウロで水をやるのと違って、末期の体は水はけが壊れてるので、点滴を増やすと足やお腹に水がたまって、のどがゴロゴロ鳴って余計つらくなることがある。それを伝えるのは医療職の仕事。
日本緩和医療学会のガイドラインでは、終末期がん患者への輸液は「多ければよい」わけではなく、状態によっては控えめ(目安として1日500〜1,000mL以下)が推奨されるとされています。過剰な輸液は浮腫・腹水・胸水・気道分泌を増やし、苦痛を強めることがあります。輸液の是非は本人の希望・家族の思い・医学的見通しを踏まえ、チームで決めるものです。
呼吸困難は本人が感じる苦しさであり、SpO2が正常でも起こります。肺転移・胸水・貧血・腹水による横隔膜の圧迫・不安など原因は複合的です。ケアの基本は体位(ファーラー位・起座位)、送風、環境調整、酸素(低酸素がある場合)、薬物(モルヒネは呼吸困難にも有効、不安には抗不安薬)です。そばに人がいて落ち着いて声をかけるだけでも呼吸は楽になります。
浮腫と腹水は低アルブミン血症・リンパの流れの障害・肝機能低下などで生じます。皮膚は薄く伸びて傷つきやすいため、スキンケアと圧迫・摩擦の回避が重要です。
息苦しさって、機械の数字が正常でも起こる。だから「SpO2は98%だから大丈夫ですよ」は本人には何の慰めにもならない。苦しいって言ったら苦しい。
意外と効くのが扇風機やうちわで顔に風を当てること。顔の神経が風を感じると、脳が「あ、空気あるな」って勘違いしてくれて、苦しさが和らぐ。あとは上半身を起こす(ファーラー位)。寝転ぶと内臓が肺を押し上げるから、起こすだけで呼吸のスペースが広がる。テーブルに枕を置いてもたれる「起座位」も楽。
むくみは水風船みたいにパンパンの皮膚。ちょっとこすっただけで破れるから、移乗のときに引きずらない、爪を立てない、保湿する。
・呼吸困難時の体位はファーラー位(半座位)・起座位。仰臥位は苦しい
・送風(扇風機)は呼吸困難の非薬物的ケアとして有効とされる
・モルヒネは呼吸困難の緩和にも使われる(痛みだけではない)
・在宅酸素療法中は火気厳禁(喫煙・仏壇のろうそく・ガスコンロに注意)
近代ホスピスの創始者シシリー・ソンダースは、終末期の苦痛を身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4側面が絡み合った全人的苦痛(トータルペイン)と捉えました。スピリチュアルペインとは「生きる意味は何だったのか」「なぜ自分が」「家族に迷惑をかけている」といった、存在そのものに関わる苦しみです。
精神科医キューブラー・ロスは著書『死ぬ瞬間』(1969年)で、死を告げられた人の心の過程を否認・怒り・取引・抑うつ・受容の5段階として示しました。ただし順番どおりに進むとは限らず、行きつ戻りつし、受容に至らない人もいることに注意が必要です。
「余命」を告げられた人の心は、教科書では否認→怒り→取引→抑うつ→受容って5段階で説明される。でも現実は振り子。朝は「もう覚悟できた」って穏やかで、夜には「なんで俺が」って怒って、翌日は「あの病院に行けば治るかも」って希望にすがる。それが普通。「昨日受容してたのに今日また怒ってる、後戻りしてる」なんて評価は絶対しない。
痛みには4種類あって、体の痛み、心の痛み、お金や仕事や家族の痛み、そして「自分の人生って何だったんだ」という魂の痛み。最後のやつは薬じゃ取れない。取れないけど、そばにいて、話を聴いて、「あなたの人生には意味があった」と感じられる時間は作れる。それが介護職にできること。
・励まさない、説得しない、話をそらさない。「そう感じるのですね」と受け止める
・沈黙を恐れない。そばに座るだけでよい時間がある
・怒りをぶつけられても個人攻撃ではないと理解する
・「まだ間に合う」「頑張って」は禁句になりうる
・その人の人生の物語(仕事・家族・誇り)に関心を向ける
家族は死を迎える前から悲しみ始めます(予期悲嘆)。介護疲れ、罪悪感、「何もしてあげられない」無力感。家族も「第二の患者」として支えます。死別後の悲しみを支えるのがグリーフケア(遺族会、手紙、看取り後の面談など)。家族の介護参加(清拭・マッサージ・声かけ)を促すことは、後の悲嘆の支えになります。
・「頑張って」「大丈夫」は言わない。何も大丈夫じゃないのを本人が一番知ってる
・黙って隣に座る時間もケア
・八つ当たりされても「自分が嫌われた」と思わない。怒りの矛先は病気
・その人が誇りにしてたこと(仕事、育てた子、趣味)を聴く。「あなたの人生、ちゃんと届いてますよ」が伝わる
家族は本人が亡くなる前から、もう悲しみ始めてる(予期悲嘆)。「もっと何かできたはず」って自分を責めてる。家族も患者さんだと思って接する。手を握る、足をさする、好きな音楽を流す、そういう「してあげられたこと」を一緒に作っておくと、亡くなった後の家族の支えになる。これがグリーフケアの入口。
本人が望む医療・ケアについて、家族や医療・介護チームとあらかじめ繰り返し話し合うプロセス。厚生労働省は2018年に愛称「人生会議」を定め、11月30日を「人生会議の日」としています。同年改訂の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、本人の意思は変化しうるため繰り返し確認すること、本人が意思を示せなくなった場合は家族等が本人の推定意思を尊重することが示されています。介護職は日常会話の中で語られた「本当はこうしたい」を記録し、チームに共有する重要な役割を担います。
・キューブラー・ロスの5段階:否認 → 怒り → 取引 → 抑うつ → 受容(順不同で行き来する)
・全人的苦痛=身体的・精神的・社会的・スピリチュアル(ソンダース)
・ACP(人生会議)=本人・家族・医療介護チームで繰り返し話し合うプロセス
・予期悲嘆=死別前から始まる悲嘆/グリーフケア=死別後の遺族支援
死が近づくと、体には比較的共通した変化が現れます。これらを知っておくことで、介護職は慌てず、家族に「自然な経過である」ことを伝え、医療職への連絡のタイミングを判断できます。特に下顎呼吸は死が数時間〜1日程度に迫ったサインとされ、この時期に家族を呼ぶことが多くあります。死前喘鳴(のどでゴロゴロ鳴る音)は本人には苦痛が少ないとされる一方、家族には苦しそうに見えるため、説明と体位の工夫が大切です。
亡くなる前の体の変化は、家の電気を奥の部屋から順番に消していくみたいに進む。まず食べられなくなり、眠っている時間が増え、おしっこが減り、手足が冷たくなって、最後に呼吸が変わる。
のどでゴロゴロ音がし始めると、家族は「痰が詰まって苦しいんじゃ」って動揺する。でも本人は意識が遠くなっていて苦しさはあまり感じていないとされてる。無理に吸引を繰り返すとかえって負担。顔を横に向ける、頭を少し高くする、口の中を湿らせる、そして家族に「自然な音です」と伝える。
あごを動かしてパクッ、パクッと息をする「下顎呼吸」が出たら、もう時間の単位。家族を呼ぶタイミング。介護職はここで慌てない。手を握ってもらう、声をかけてもらう。聴覚は最後まで残るとされるから、聞こえていると思って接する。
・苦痛を伴う処置・移動は最小限に。清潔は部分清拭でよい
・口腔を湿らせ、唇を保湿
・体位は本人が楽な姿勢。喘鳴時は側臥位や頭部挙上
・聴覚は最後まで保たれるとされる。本人に聞こえている前提で話す
・家族に「今、何が起きているか」「自然な経過であること」を説明(医療職と連携)
・家族が手を握る・声をかける時間を作る。写真、音楽、香りなど本人らしさを
・医師の死亡確認後に行う。在宅では訪問診療医が確認し、死亡診断書を作成
・死後硬直は死後2〜4時間ほどで顎から始まるとされるため、義歯装着・整容・着替えは早めに
・清拭・整容・化粧・お気に入りの服。家族に「一緒にやりませんか」と声をかける(グリーフケアの一部)
・医療器具の抜去は医療職。介護職は清潔・整容・環境整備を担う
・その人の尊厳を最後まで守る態度(声かけ、丁寧な扱い)
・お風呂や大きな体位変換はもうしない。体を拭くのも顔と手足くらいでOK
・口と唇を湿らせる。これは続ける
・のどがゴロゴロしてたら顔を横に。吸引の連打はしない
・耳は最後まで聞こえてると思って話す。本人の前で「もう長くないね」は絶対言わない
・家族に「今こういう状態です、自然な経過です」を伝える(看護師さんと一緒に)
・家族が手を握る時間を邪魔しない。むしろ作る
・まずお医者さんが死亡確認。それまで勝手に動かさない
・体が硬くなるのは2〜4時間くらいで顎から。入れ歯を入れる、着替え、髪を整える、は早めに
・体を拭いて、化粧して、好きだった服を着せる。「ご一緒にどうですか」と家族を誘う。家族にとって「最後にしてあげられたこと」になる
・管を抜くのは医療職の仕事
・亡くなった後も「○○さん、きれいにしますね」と声をかけながら。生きてるときと同じ扱い
・死期が近いサイン:下顎呼吸・死前喘鳴・チェーンストークス呼吸・チアノーゼ・四肢冷感・尿量減少・傾眠
・下顎呼吸は死が数時間〜1日程度に迫ったサインとされる
・死前喘鳴は本人の苦痛は少ないとされる。頻回の吸引は負担 → 体位の工夫・家族への説明
・死亡確認は医師。エンゼルケアは死亡確認後、家族の参加を促す
・特養等の看取り介護加算は「医師が回復の見込みがないと判断」「本人・家族の同意」「看取りに関する指針・研修・体制」が要件。死亡日からさかのぼって段階的に加算される
がん末期の介護は、治療ではなく生活を支えるケアです。介護職は最も長く利用者のそばにいる職種として、苦痛のサインをいち早く捉え、痛みを増やさない介助技術で日常を整え、家族の支えとなり、在宅医・訪問看護師・ケアマネジャーと情報を共有する役割を担います。特に褥瘡予防と、痛みに配慮した体位変換・移乗は介護職の専門性が最も発揮される場面です。
末期がんのケアで介護職がやるのは、病気と戦うことじゃない。「今日一日、痛くなく、きれいで、自分らしく過ごせた」を積み重ねること。それって医者にも看護師にもできない、介護職にしかできない仕事。
そのために覚えておくことはシンプル。体を動かすときは痛み止めが効いてる時間帯に、電車の時刻表に合わせるみたいに。床ずれを作らない。口をきれいに。家族に「大丈夫、一緒にいますよ」と伝える。気づいたことは全部チームに回す。それだけ。
・医療用麻薬の量や回数を独自判断で変えない。レスキューの使用は指示の範囲内で、使用後は必ず記録
・貼付剤(フェンタニル)の貼り替え・廃棄は指示どおり(廃棄時は粘着面を内側に折る等)。入浴・電気毛布・カイロで吸収が増える
・骨転移がある部位への強い圧迫・マッサージ・ねじりは病的骨折の危険
・「食べないと死んじゃいますよ」「頑張って」など本人・家族を追い詰める言葉
・本人のいる場所で予後や死について話さない(聴覚は最後まで残るとされる)
がん末期には、他の疾患にはない制度上の特例がいくつも用意されています。「がん患者はADLが急に落ちる」「時間がない」という特性に合わせた仕組みです。介護職・ケアマネジャーがこれを知っているかどうかで、本人が自宅で過ごせる日数が変わると言っても過言ではありません。
がんの人は状態が「崖」で落ちるから、普通のスピードの手続きだと間に合わない。だから国も「がん末期は特急で」という特例をあちこちに作ってる。介護保険は40歳から、認定は急いで、ベッドは軽度でも借りられて、訪問看護は医療保険で回数制限なし。この特急券を知ってるかどうかで、その人が家で過ごせる日数が変わる。
| 制度・特例 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 介護保険 (特定疾病) | 40〜64歳の第2号被保険者もがん末期なら申請可能 | 申請書の特定疾病名は「がん」でよい。主治医意見書で医師が判断 |
| 迅速な認定 | 認定調査の優先、主治医意見書の早期提出、暫定ケアプランで認定前からサービス利用 | 効力は申請日にさかのぼる。急変時は区分変更申請。要介護度は今後の悪化を見込んで判断されることがある |
| 福祉用具の例外給付 | 要支援1・2、要介護1でも特殊寝台・車いす・体位変換器等の貸与が認められる | 末期がんは医師の医学的所見とサービス担当者会議等のケアマネジメントで判断(2018年の運用改善で迅速化)。「今は歩けるが数週間で必要」を先読みできる |
| 訪問看護は 医療保険 | 末期の悪性腫瘍は「厚生労働大臣が定める疾病等(別表7)」→ 医療保険で訪問看護 | 介護保険優先の例外。週3日の上限なし、1日複数回・複数事業所も可。介護保険の支給限度額を圧迫しない |
| 緩和ケア病棟 ホスピス | 症状緩和に特化した入院施設。在宅との行き来(レスパイト入院)も | 「最後まで自宅」だけが正解ではない。本人の希望で選べる選択肢として情報提供 |
| 経済的支援 | 高額療養費制度(自己負担上限)、傷病手当金(健保加入者、最長1年6か月)、障害年金(がんも対象になりうる)、医療費控除 | 40〜60代は「働けなくなる」経済的打撃が大きい。MSW(医療ソーシャルワーカー)・がん相談支援センターにつなぐ |
全国のがん診療連携拠点病院などに設置され、その病院の患者でなくても無料で相談できる窓口です。治療・療養・仕事・お金・在宅の相談に看護師やMSWが対応します。介護職が家族に「こういう窓口がありますよ」と伝えるだけで、大きな支えになります。
・がん末期は特定疾病 → 40〜64歳も介護保険。認定は迅速に、暫定ケアプラン可
・軽度者(要支援・要介護1)でも特殊寝台等の例外貸与が認められる
・末期の悪性腫瘍の訪問看護は医療保険(介護保険優先の例外、別表7)
・経済支援:高額療養費・傷病手当金・障害年金。相談先はがん相談支援センター・MSW
1. 「末期」とは治癒を目指す治療から症状緩和へ軸足が移った段階。医師が「回復の見込みがない」と判断すれば特定疾病に該当し、40〜64歳でも介護保険が使える。
2. がんのADLは最後の1〜2か月で急激に落ちる。「まだ元気」のうちに申請し、暫定ケアプラン・福祉用具の例外給付・区分変更を先回りで使う。
3. 痛みは取れる。WHO方式(by mouth / by the clock / for the individual / attention to detail)。医療用麻薬は正しく使えば依存にならない。介護職は痛みのサインを観察して伝える。
4. 医療用麻薬の副作用は便秘・吐き気・眠気。便秘はほぼ必発で下剤併用。呼吸数の著しい減少・強い傾眠は緊急連絡。
5. 食べられないのは悪液質のため。無理に食べさせず「食べる喜び」を守る。家族の「点滴を」の思いは受け止め、説明は医療職へつなぐ。
6. 心の痛みに寄り添う。キューブラー・ロスの5段階は行き来する。傾聴、ACP(人生会議)、家族の予期悲嘆とグリーフケア。
7. 死のサインを知り、慌てない。下顎呼吸・死前喘鳴・四肢冷感。聴覚は最後まで残ると考え、尊厳を守る。看取りはチームで。
1. 末期=何もしない、じゃない。「がんを消す」から「つらさを消す」に目標が変わっただけ。40歳から介護保険OK。申請書には「がん」とだけ書く。
2. がんは崖。先月歩いてた人が来週寝たきりになる。「まだ大丈夫」は禁句。ベッドも申請も、今日。
3. 痛みは我慢させない。階段(ラダー)を上るだけで大半は取れる。医療用麻薬で中毒にはならない。介護職は「痛そう」を見つけて伝える係。
4. 麻薬を始めたら下剤もセット。便秘は必ず来る。「呼んでも起きない・息が少ない」は今すぐ電話。
5. 穴の開いたタンクに燃料は溜まらない。「たくさん食べれば」は通用しない。一口の「おいしい」で満点。
6. 心は振り子。受け入れたり怒ったりを繰り返すのが普通。頑張れは言わない。黙って隣に座るのもケア。
7. 奥の部屋から順に電気が消える。ゴロゴロ音、あごの呼吸。慌てない、家族を呼ぶ、耳は聞こえてると思って話す。最後まで「○○さん」と呼ぶ。
ALS・パーキンソン病など神経難病は年単位でゆっくり進行し、指定難病の医療費助成が使える。がん末期は経過が週〜月単位で速く、指定難病ではないが、迅速認定・福祉用具の例外給付・医療保険の訪問看護という独自の特例で支えられる。
共通するのは「本人の意思決定支援(ACP)」「多職種連携」「家族支援」が介護の柱であること。
「がん末期 = 特定疾病 = 40歳から介護保険 = 急いで認定」
・WHO方式がん疼痛治療法:3段階除痛ラダー、経口・時刻・個別・細部への配慮
・医療用麻薬は依存にならない、副作用は便秘(必発)・吐き気・眠気
・キューブラー・ロス:否認・怒り・取引・抑うつ・受容/ACP(人生会議)/予期悲嘆・グリーフケア
・死期のサイン:下顎呼吸・死前喘鳴・チアノーゼ・四肢冷感/死亡確認は医師/エンゼルケアに家族参加
・末期がんの訪問看護は医療保険/軽度でも特殊寝台の例外貸与/認定は申請日にさかのぼる