脊髄小脳変性症(SCD)を知る
小脳が少しずつ壊れていく ― ふらつき・呂律・不器用が止まらない病気
小脳が少しずつ壊れていく ― ふらつき・呂律・不器用が止まらない病気
脊髄小脳変性症(SCD: Spinocerebellar Degeneration)は、小脳や脊髄の神経細胞が原因不明で徐々に壊れていく神経変性疾患の総称です。1つの病気ではなく、30種類以上の病気をまとめた名前。
共通する症状は運動失調(小脳失調)。筋力はあるのに、体のバランスや動きの協調がうまくいかなくなります。
感染症・中毒・腫瘍など明確な原因がある小脳障害は含みません。
SCDは、小脳(動きのバランスをとる脳)が少しずつダメになっていく病気の総称。1つの病気じゃなくて、似た症状の30種類以上の病気をまとめて呼んでる名前です。
筋力はあるのに「うまく動かせない」のが特徴。力はあるけどコントロールできない、というイメージ。
日本に約2万7千人(指定難病受給者証ベース)。人口10万人あたり約18人。男女差は少ない。
病型によりさまざま。30〜50代で多い。遺伝性は若年発症も。40歳未満でも発症→特定疾病として重要。
ゆっくり進行。病型によるが、発症から車椅子まで5〜15年程度。純粋小脳型は比較的緩やか、多系統障害型は早い。
日本に約2万7千人。そこそこ多い難病。男女の差はあまりない。
30〜50代が多い。遺伝性だともっと若いことも。40歳未満でもなるから特定疾病に入ってる。
ゆっくり進む。車椅子になるまで5〜15年くらい。タイプによって全然違う。
小脳は脳の後ろ下にある部位で、体積は脳全体の約10%ですが、ニューロンの数は脳全体の半分以上。「動け」という大脳の命令に対し、タイミング・力加減・バランスを微調整する役割を担います。
小脳が壊れると、筋力は正常なのに動作がぎこちなく、バラバラになる。これが運動失調(ataxia)です。
大脳が「右手を動かせ!」と命令を出す。小脳はそれを受けて「もうちょっとゆっくり、あと3cm右、力はこのくらい」と微調整してくれる名コーチ。
このコーチがいなくなると、力はあるのに動きがガタガタになる。コップに手を伸ばしても行き過ぎたり足りなかったり。これが「運動失調」。
| 小脳の機能 | 正常なとき | 障害されると |
|---|---|---|
| 姿勢の維持 | まっすぐ立てる | ふらつく(体幹失調) |
| 歩行の協調 | まっすぐ歩ける | 酔っぱらいのような歩行(失調性歩行) |
| 手の微調整 | 箸が使える・字が書ける | 震えて不器用(企図振戦) |
| 発話の調整 | なめらかにしゃべれる | 呂律が回らない(構音障害) |
| 眼球の制御 | 焦点が合う | 物が揺れて見える(眼振) |
SCD = 「筋力低下」ではなく「協調運動障害」。力が入らないのではなく、バランスよく動かせないのが本質。ALSとの違いを整理しよう。
SCDは原因で大きく2つに分かれます。約70%が孤発性(非遺伝性)、約30%が遺伝性。遺伝性はさらに遺伝形式で細分化されます。
7割は遺伝と関係なく突然なるタイプ。3割は親から遺伝するタイプ。
多系統萎縮症(MSA)が代表。小脳+自律神経+パーキンソン症状。かつてのOPCA(オリーブ橋小脳萎縮症)・SDS(シャイドレーガー症候群)・SND(線条体黒質変性症)は現在すべてMSAに統一。
皮質性小脳萎縮症(CCA):小脳のみが萎縮。症状は比較的軽い。
常染色体優性遺伝が大部分。日本ではSCA3(マシャド・ジョセフ病)、SCA6、SCA31、DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)が多い。
常染色体劣性遺伝(フリードライヒ失調症等)は日本ではまれ。
一番多いのは多系統萎縮症(MSA)。小脳だけじゃなくて自律神経やパーキンソン症状も出る。進行がやや早い。
もう一つは皮質性小脳萎縮症。小脳だけがダメになるタイプで、比較的軽め。
親から子へ受け継がれるタイプ。SCA3、SCA6、SCA31、DRPLAっていう番号がついてる。番号ごとに症状や進み方が違う。
・SCDは「総称」であり1つの病気ではない
・多系統萎縮症(MSA)は別の指定難病(指定難病17)として分離されている
・遺伝性SCDの多くはCAGリピート異常(ポリグルタミン病)が原因
純粋小脳型(小脳症状のみ)と多系統障害型(小脳+他の神経系)に大別されます。
小脳だけが壊れるタイプは比較的おだやか。小脳以外も壊れるタイプは複雑で進行も早め。
| 病型 | 遺伝 | 特徴 | 日本での頻度 |
|---|---|---|---|
| SCA3 (マシャド・ジョセフ病) | 優性 | 小脳失調+眼球運動障害+末梢神経障害。日本の優性遺伝SCDで最多。 | 遺伝性の約30% |
| SCA6 | 優性 | 純粋小脳型。進行が非常にゆっくり。50代以降に発症が多い。予後比較的良好。 | 遺伝性の約25% |
| SCA31 | 優性 | 純粋小脳型。日本固有。高齢発症、ゆっくり進行。 | 遺伝性の約10% |
| DRPLA (歯状核赤核淡蒼球 ルイ体萎縮症) | 優性 | 小脳失調+不随意運動+認知機能障害+てんかん。若年発症ほど重症化。 | 遺伝性の約10% |
| MSA-C (多系統萎縮症 小脳型) | 孤発性 | 小脳失調+自律神経障害(起立性低血圧、排尿障害、睡眠時無呼吸)。孤発性SCDの最多。 | 孤発性の大半 |
| CCA (皮質性小脳萎縮症) | 孤発性 | 純粋小脳型。ゆっくり進行。比較的予後良好。 | 孤発性の一部 |
| タイプ | ポイント |
|---|---|
| SCA3 | 日本で一番多い遺伝性タイプ。小脳+目+手足のしびれ。 |
| SCA6 | 小脳だけ。ゆっくり進む。比較的おだやか。 |
| SCA31 | 日本にしかないタイプ。高齢で発症、ゆっくり。 |
| DRPLA | 小脳+認知症+てんかん。若いとより重い。 |
| MSA-C | 遺伝じゃないタイプで一番多い。自律神経もやられる。血圧ガクンと下がったり。 |
| CCA | 小脳だけ。遺伝じゃない。おだやか。 |
すべてのSCDに共通する最も重要な症状。筋力は保たれているのに、複数の筋肉を協調して動かせない。
力はあるのにコントロールできない。酔っぱらってるみたいな状態が、お酒なしで起きる。
ふらつき、よろめき。足を広げてバランスを取る(ワイドベース歩行)。まっすぐ歩けない。特に暗所・不整地で悪化。
箸が使えない、字が書けない(書字障害)、ボタンが留められない。目標に手を伸ばすと震えて行き過ぎる(企図振戦)。
呂律が回らない。話すスピードやリズムが不規則に。「爆発性言語」(突然大きくなったり小さくなったり)が特徴的。
眼振(眼球の揺れ)が代表的。注視がうまくできない。物が揺れて見える(動揺視)。めまい感。
お酒飲んでないのに酔っぱらいみたいな歩き方になる。足を広げてバランスとる。暗いところは特にヤバい。
箸が使えない、字がぐちゃぐちゃに。コップをつかもうとすると手が震えて行き過ぎる。
呂律が回らない。声の大きさがバラバラになる。聞き取りにくい話し方になる。
目がピクピク揺れる(眼振)。物が揺れて見える。めまいがする。
ALS = 筋力が落ちる(運動ニューロンが壊れる)→ 力が入らない
SCD = 筋力は保たれる(小脳が壊れる)→ バランスよく動かせない
どちらも進行性だが、障害される場所と症状が全く異なります。
特にMSAやSCA3など多系統障害型では、小脳失調に加えて以下の症状が出現し、介護の負担を大きくします。
MSAやSCA3だと、小脳以外のところもダメになるから症状が複雑になる。
起立性低血圧(立ち上がるとフラッとする)、排尿障害(頻尿・尿失禁・残尿)、発汗異常、便秘。MSAで特に顕著。睡眠時無呼吸は突然死のリスク。
動作が遅い(無動・寡動)、筋肉がこわばる(筋強剛)、手が震える(振戦)。MSA-P型で特に目立つ。パーキンソン病との鑑別が重要。
手足のしびれ・感覚低下(末梢神経障害)。痙縮・腱反射亢進(錐体路障害)。SCA3で多い。
嚥下障害(進行期)、認知機能障害(DRPLAなど)、不随意運動(舞踏運動・ミオクローヌス)、てんかん発作。
立ち上がると血圧がガクンと下がる。おしっこがうまく出ない・漏れる。汗が変。便秘。寝てるときに呼吸が止まることもある(これは怖い)。
動きが遅い、体が固い、手が震える。パーキンソン病と間違われることもある。
手足がしびれたり、逆にカチカチに突っ張ったり。タイプによって出方が違う。
飲み込みが悪くなる、認知症っぽくなる(DRPLAタイプ)、勝手に体が動く。
MSAでは声帯が麻痺して睡眠中に気道が閉塞し、突然死のリスクがあります。いびきの変化(高調になる)、無呼吸の出現に注意。CPAPや場合により気管切開が必要になることも。
歩行時のふらつき。階段の昇降が不安定。字が乱れる。呂律が少し回りにくい。日常生活はおおむね自立だが、「最近よくつまずく」が最初のサイン。
杖や歩行器が必要に。食事(箸)や着替えに介助が必要。構音障害が進行し聞き取りにくくなる。転倒リスクが大幅に増大。排尿障害・起立性低血圧が出てくる(MSA型)。
車椅子→ベッド上の生活。嚥下障害で誤嚥性肺炎のリスク。構音障害が高度で発話困難。全面的な介護が必要。MSA型では自律神経障害が深刻化。
ちょっとふらつく程度。階段が怖い。字が汚くなった。まだ普通に生活できるけど、本人は「おかしいな」と感じてる。
一人で歩くのが危ない。箸が使えなくてスプーンに。しゃべるのも聞き取りにくい。転倒がめちゃくちゃ多くなる。
車椅子→ベッド。飲み込みも難しくなる。話すのもかなり辛い。全介助の状態に。
・SCA6・SCA31・CCA(純粋小脳型):進行が非常にゆっくり。比較的長期の予後。
・MSA-C:発症から平均約9年の生命予後。自律神経障害が生命に関わる。
・DRPLA(若年発症型):急速に進行。認知機能低下も著しい。
SCDの診断は、臨床症状(運動失調)+画像検査+遺伝子検査+他疾患の除外で行います。
頭部MRIが最重要。小脳や脳幹の萎縮パターンで病型を推定。MSAでは橋に「十字サイン」(hot cross bun sign)が見られることが有名。
遺伝性が疑われる場合は遺伝子検査でCAGリピート数を確認。確定診断に至る。
MRIで脳を撮ると小脳が縮んでいるのがわかる。MSAだと脳の断面に十字のマークが見えることがある(これは有名)。
遺伝性かどうかは遺伝子検査でハッキリわかる。ただし、検査を受けるかどうかは本人の意思を尊重。
残念ながら根治療法は確立されていません。対症療法とリハビリテーションが柱です。
| 薬剤・治療 | 目的 | ポイント |
|---|---|---|
| セレジスト (タルチレリン) | 運動失調の改善 | TRH誘導体。日本で唯一の保険適用薬。効果は限定的だが、初期〜中期で効きやすい。 |
| TRH注射 | 運動失調の一時的改善 | 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン。点滴投与。急性期や増悪時に使用。 |
| 塩酸メキシレチン | 有痛性筋痙攣 | 足のつり・痛みに対して。 |
| アセタゾラミド | 発作性めまい | SCA6などの発作性増悪に使用。 |
| リハビリテーション | 機能維持・転倒予防 | 最も効果が実証されている介入。集中リハビリで運動失調が改善する報告あり。 |
SCDの最大の問題は転倒です。ふらつきが進行するため、転倒→骨折→寝たきりのリスクが非常に高い。転倒予防がケアの最優先事項。
SCDの介護で一番怖いのは転倒。ふらつくから転ぶ→骨折→寝たきり。「転ばせない」が最大のミッション。
・バランス訓練が中核(片足立ち、重心移動練習)
・歩行訓練(平行棒→杖→歩行器と段階的に)
・協調運動訓練(ボール操作、指鼻試験の応用)
・集中リハビリ(4週間のプログラム)で失調が改善するエビデンスあり
・ALSと違い過負荷のリスクは低い → しっかりリハビリできる
・手すりを廊下・トイレ・浴室に設置
・段差の解消、滑り止めマット
・家具の角にクッション材
・照明を明るく(暗所でふらつき悪化)
・足元の障害物を徹底除去
・ヘッドギアの使用検討(転倒時の頭部保護)
ALSと違ってリハビリをしっかりやれるのがSCDのいいところ。バランス訓練や歩行訓練で実際に症状が良くなることもある。
「やっても無駄」じゃない。やればやるほど効果がある。
・手すりをあちこちに
・段差をなくす
・暗いところは明るくする(暗いと余計ふらつく)
・足元のモノを片付ける
・ヘルメットをかぶる人もいる(転倒で頭を打つ予防)
T字杖 → ロフストランドクラッチ(前腕支持杖)→ 歩行器 → 車椅子。進行に合わせて先回りで準備。本人が「まだ大丈夫」と思っていても、転倒してからでは遅い。安全のために早めの導入を。
・上肢の失調で箸が困難 → 太柄スプーン・滑り止めマット
・食器は重みのある安定したもの
・進行期の嚥下障害 → とろみ付け、一口量を少なく
・むせに注意(誤嚥性肺炎予防)
・浴室は最も転倒リスクが高い場所
・滑り止め、手すり、シャワーチェア
・起立性低血圧に注意(MSA型)→ 急に立たない
・湯温・時間の管理(自律神経障害で体温調節が困難)
・歩行障害でトイレが間に合わないことも
・ポータブルトイレの早期導入
・MSA型:排尿障害(残尿・尿失禁・頻尿)が深刻
・間欠的自己導尿が必要になることも
・構音障害で聞き取りにくい → ゆっくり・短く話してもらう
・先回りして答えない(本人の言葉を待つ)
・進行期:筆談・タブレット・コミュニケーションボード
・ALSと違い意識も手指機能も比較的保たれることが多い
箸が使えなくなったら太いスプーンに。皿は滑らないようにマットを敷く。飲み込みが悪くなったらとろみをつける。
お風呂は一番危ない場所。滑り止め必須。急に立つと血圧が下がる(MSA型)。長湯も注意。
歩くのが遅いから間に合わないことも。ポータブルトイレを早めに。MSA型はおしっこのトラブルが多い。
呂律が回らなくても、ゆっくり待てば伝えてくれる。先回りして「こういうこと?」って言いすぎない。本人の言葉を待つ。
・体が徐々に思い通りにならない喪失感・不安・抑うつへの配慮
・遺伝性の場合は子どもへの遺伝の不安もある → 遺伝カウンセリングの紹介
・患者会(全国SCD・MSA友の会)や同じ病気の仲間とのつながりが支えになる
・できることを一緒に見つける。「できない」ではなく「どうすればできるか」
体が思い通りにならなくなっていくのは本当につらい。遺伝性だと「子どもにも遺伝するのか」という不安もある。
同じ病気の人とのつながり(患者会)がすごく力になる。介護者としては「できることを一緒に探す」スタンスが大事。
16の特定疾病の一つ。40〜64歳でも利用可能。
医療費助成あり。セレジストなどの薬代負担軽減。
補装具(車椅子等)、住宅改修、移動支援。
・介護保険:特定疾病だから40代でも使える
・難病法:指定難病だから医療費が安くなる
・障害福祉サービス:車椅子や家の改修に使える
1. 「筋力低下」ではなく「協調運動障害」。筋力はあるのにうまく動かせない病気。
2. 転倒予防が最優先。ふらつき→転倒→骨折→寝たきりの連鎖を断つ。
3. リハビリは有効。ALSと異なり、積極的なリハビリで症状改善の可能性。
4. 30種類以上の総称。病型によって症状・進行・予後が全く異なる。
5. 自律神経障害(特にMSA)に注意。起立性低血圧・排尿障害・睡眠時無呼吸。
6. 精神的サポートを忘れない。遺伝の不安、喪失感への寄り添い。
7. 制度をフル活用。介護保険+難病法+障害福祉サービスの3本柱。
1. 力はある、でもコントロールできない。そこがALSとの最大の違い。
2. 転倒が一番怖い。環境整備と福祉用具の先回り準備。
3. リハビリはやる価値あり。しっかりやれば良くなることもある。
4. 1つの病気じゃない。30種類以上。タイプで全然違う。
5. 血圧・おしっこ・呼吸にも注意(MSA型)。
6. 心のケア。遺伝の不安、できなくなる辛さに寄り添う。
7. 制度は3つ。介護保険・難病法・障害福祉。フル活用。
「SCD = 小脳の変性 = 運動失調(協調運動障害)」
ふらつく → ○ / 筋力が低下する → × / 感覚がなくなる → ×(小脳は感覚に関係しない)
ALSとの混同に注意! ALS=筋力↓ SCD=バランス↓