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介護におけるアセスメント・観察のポイント Lesson 1
01

移動・移乗における観察のポイント

「いつもと違う」に、いちばん早く気づく人になる

心身の機能低下は、どう移動に表れるのか。動かないことが招く変化から、疾患別の歩き方の特徴、転倒・転落リスクのアセスメント、そして医療職との連携までを、「何を観て・どう気づき・誰につなぐか」の視点で整理。

利用者さんに毎日いちばん近くで接するのは介護職。だからこそ「あれ、今日ちょっと歩き方おかしいな」に最初に気づける。その一瞬の気づきが、転倒も大きな病気も防ぐページです。

アテナ様の導き

ここは「しくみ」を知る章ではなく、気づく(観察する)章ですわ。同じ移動・移乗の場面でも、見るべきは動作の手順そのものではなく、「いつもと違う変化」です。歩く速さ、歩幅、足の運び、顔の表情、疲れ方——その小さな差に、心と体のサインが宿っています。介護職はいちばん近くで日々を見守る存在。兆候に早く気づき、安楽な姿勢をとらせ、医療職へつなぐ。この流れを身につけましょう。それが、大きな事故と機能低下を未然に防ぐ、あなたの目の力ですわ。

アテナ様の導き(本音モード)

観察の章って地味に感じるかもしれません。でも現場でいちばん効くのはこれです。「なんか今日いつもと違う」——この違和感を言葉にできる人が、いちばん頼りになる。脳梗塞も骨折も、最初は「ちょっとした変化」から始まることが多い。本人が「しびれる」って言えないこともある。だから普段の様子を知っておくのが土台。そして気づいたら抱え込まず、安楽な姿勢にして医療職へ即連絡。判断は独りでしない。これが観察の章の全部です。

1枚でつかむ:移動・移乗の「観察」の流れ
平常を知る → こころ → からだ → 動作 → 医療職へつなぐ
1

平常(いつも)を知る

変化に気づく前提は平常の把握。身体状況・既往歴・生活習慣・趣味・人間関係まで、その人を取り巻く環境ごと知っておく。

2

こころの変化に気づく

表情が暗い・様子がいつもと違う=意欲低下のサインかも。会話の中から読み取れることも。放置は生活不活発病につながる。

3

からだの変化に気づく

脳・神経の変化は対応が遅れると重大化。本人の訴えがなくても小さな変化を見のがさない。高齢者は脳梗塞などを突然発症することがある。

4

動作の変化に気づく

歩行速度・歩幅・足の運び・すり足・からだの傾き。痛みが出ると動きが変わる。膝が痛いと階段を1段ずつ足を揃えて昇降。

5

医療職へつなぐ

安楽な姿勢をとらせ、医師・理学療法士・看護師・ケアマネジャーへ連絡・相談。移動手段や介助量は独断せず確認して判断する。

1. 動かないことが招く変化 ── 観察の出発点
意欲低下→活動低下の悪循環/生活不活発病のサイン

人は外出の機会が減ると意欲が低下し、食欲がない・体調がすぐれないなど身体機能が低下します。すると自分から動こうという意欲がなくなり、さらに動けなくなる——これが悪循環です。過度の安静が続き、あらゆる身体・精神機能が低下した状態を生活不活発病(廃用症候群)といいます。観察では、この悪循環の入口である「意欲・活動の低下サイン」を早くつかむことが要になります。

「危ないから動かさない」が善意でも、動かさないと筋力も意欲も落ちてもっと動けなくなる。この負のループが生活不活発病です。だから観察のスタートは「体の異常探し」より前に、その人が動きたがっているか/活動が減っていないかを見ること。趣味に興味を示さない、日中うとうと(傾眠)が増えた——これ、立派な観察サインです。動く機会をつくること自体が予防になります。

筋肉は使わないと減る。廃用による筋力低下は1日に1〜1.5%、1週間で10〜15%とされる。「動かさない」判断そのものがリスクだと押さえる。

● 生活不活発病(廃用症候群)で観るサイン

系統・部位起こること観察のサイン
筋・関節筋力低下・筋萎縮、関節拘縮(可動域の制限)立ち上がりに時間がかかる、動きがかたい、可動範囲が狭くなった
骨萎縮・骨粗鬆症(骨形成より骨吸収が優位に)ちょっとした転倒で骨折しやすい
循環・自律心機能低下、起立性低血圧急に立つとめまい・ふらつき、動悸・息切れ
呼吸換気障害、沈下性肺炎(仰臥位で粘液が下部にたまる)痰がからむ、呼吸が浅い、発熱
皮膚褥瘡(圧迫・摩擦・ズレで血行不良)骨の突出部の発赤・びらん、同一姿勢が続いている
こころ意欲低下、うつ状態、知的・心理的機能の低下表情が暗い、会話が減る、傾眠が増える
2. 疾患別・移動能力の低下と歩き方の着眼点
骨折/変形性膝関節症・脊柱管狭窄症/進行性疾患/脳・脊髄障害

移動能力を下げる疾患には、それぞれ特徴的な歩き方・動作があります。しくみを暗記するのではなく、「この疾患なら、こういう変化が観察される」と結びつけるのが観察の章のコツ。特に高齢者は加齢による筋力低下・骨密度低下があり、転倒すると骨折の危険が高まります。

● 高齢者に多い骨折(転倒後に疑う4部位)

股関節:大腿骨頸部骨折

数か月の入院治療を余儀なくされることも。転倒後に立てない・股関節痛。

手首:橈骨遠位端骨折

転倒時に手をついて受傷しやすい。手首の腫れ・変形。

肩:上腕骨近位端骨折

肩から転倒。腕が上がらない・肩の痛み。

背骨:脊椎圧迫骨折

しりもち等で受傷。背部痛、身長が縮む・円背。

遠位端=体幹から遠いほう、近位端=体幹に近いほう。橈骨遠位端骨折は手首側の骨折を指す。

疾患移動への影響観察される歩き方・動作
変形性膝関節症膝軟骨がすり減り疼痛・腫れ。中年以降の肥満に多い歩行・階段昇降が辛い、膝をかばう。進行すると膝が伸びず歩行困難
腰部脊柱管狭窄症神経が圧迫され下肢に痛み・しびれ間欠性跛行:少し歩くと痛み・しびれで歩けず、休むと治まりまた歩ける
パーキンソン病震え・筋固縮。進行性前かがみ・加速して止まれない(加速歩行)。衝突・転倒の危険
脳血管障害(片麻痺)患側が自由に動かせずバランスを崩しやすい立ち上がり・歩行が不安定。坂道・段差で不安定。介助は麻痺側に立つ
脊髄損傷損傷部位で麻痺範囲が変わる頸髄=四肢、胸髄=体幹と両下肢、腰髄=両下肢に麻痺

高次脳機能障害にも注意。脳の右半球が損傷すると半側空間無視(多くは左半分を認識できず、ぶつかる・足を踏み外す)、左半球の言語中枢が障害されると失語症が起こります。動作の変化だけでなく、「見えているのに反応しない側がある」といった認知面の変化も観察のポイントです。

3. 転倒・転落リスクのアセスメント
内的要因(からだ)/外的要因(環境)で分けて観る

転倒・転落のリスクは、本人のからだの中にある要因(内的要因)と、環境の側にある要因(外的要因)の両面から見立てます。内的は簡単には変えられませんが、外的要因は環境を整えれば減らせるのが介護の腕の見せどころ。両方を掛け合わせてリスクを評価します。

内的要因(本人のからだ・こころ)外的要因(環境・道具)
加齢による筋力低下・バランス低下床の段差・つまずきやすい敷居
視覚・聴覚・平衡感覚の低下(段差に気づけない等)手すりがない・つかまる場所がない
起立性低血圧(急に立つとめまい)滑りやすい床・通路の障害物
骨密度の低下(転倒=骨折に直結)照明が暗い・見えづらい
疾患(認知症・脳卒中・パーキンソン病 等)合わない履物・杖・車いす・装具
転倒・転落 リスク 内的要因(からだの中) 外的要因(環境・道具) 筋力・バランス低下 感覚・平衡感覚の低下 起立性低血圧 疾患・骨密度の低下 段差・障害物 手すりがない 暗い・滑る床 合わない履物・杖 内的 × 外的 が重なるほどリスクは高まる まず変えやすい「外的要因」から環境を整える

転倒・転落リスクは、本人の内的要因(変えにくい)と環境の外的要因(整えれば減らせる)の掛け合わせで見立てる。観察では両面をセットで評価し、外的要因の除去を優先して手を打つ。※本図はオリジナルの模式図。

4. 移動における変化に気づく観察ポイント
前・中・後で観る/こころ・からだ・動作の3つの目

観察は移動・移乗の「前・中・後」で分けると抜けがありません。開始前にコンディションと環境を確かめ、動作の最中は姿勢とふらつきを見て、終わった後は疲労や皮膚の状態を確認します。いつもより時間がかかる・違う方法でおこなっている、といった「平常との差」があれば、本人に確認し必要に応じて健康状態をチェックします。

タイミング観察する点
移動・移乗の前覚醒・意欲、顔色・表情、痛みの訴え、めまいの有無、履物・装具の適合、環境(段差・障害物・手すり・明るさ)
移動・移乗の中からだの傾き・ふらつき、歩行速度・歩幅・足の運び・すり足、表情の変化、痛み、息切れ・動悸
移動・移乗の後疲労感、息切れの回復具合、皮膚(骨突出部の発赤)、痛みの残り、気分の変化

● 歩行動作で観る5つの目

① 速度

歩行速度が遅くなっていないか。

② 歩幅

歩幅がばらついていないか。

③ 足の運び

運び方がおかしくないか、すり足になっていないか。

④ 傾き

からだが傾いていないか。

⑤ 勢い・コントロール

筋力低下や可動域制限で、勢いをつけたり足を振り下ろす動きになっていないか。

+ 痛みのサイン

膝が痛いと階段を1段ずつ足を揃えて昇降するなど、動作が変わる。

高齢者は脳梗塞などを突然発症することがある。本人の訴えがなくても小さな変化を見のがさず、安楽な姿勢をとらせて医療職に連絡する。

5. 移動における医療職との連携
誰に・何を確認するか/過剰介助を避ける

同じ障害・疾病でも、健康状態や身体能力は一人ひとり違います。移動の手段や介助量は個々の状態に合わせて選ぶ必要があり、介護職が単独で決めるものではありません。専門職に確認して判断します。ここで大切なのが、よかれと思った過剰な介助は残存機能を低下させ、意欲を失わせるという視点。「できることは自分で」を守りつつ、必要な分だけ支えます。

連携先確認・共有すること
医師・理学療法士移動に関する身体能力(座位・立ち上がり・歩行の可否)、適切な移動手段、必要な介助の程度
医師・看護師身体機能の予後(回復の見通し)、進行性疾患で移動手段を切り替えるタイミング
ケアマネジャー予後に合わせた生活上の課題・目標、移動に関する生活状況の変化への対応
介護職(自分の役割)本人の心身の変化への気づき、本人・家族との会話から得た情報、本人の意向を専門職へ伝える

装具・福祉用具の適合も観察対象。体型や身体機能が変わると装具が合わなくなり、傷・痛み・歩行の支障が出ます。杖は大腿骨大転子の高さ・軽く肘が曲がる長さが目安。片麻痺にはロフストランド・クラッチ、関節リウマチにはプラットホーム・クラッチが適します。座位が不安定なら、すぐ医師・理学療法士に適合判断を依頼します。

WORD:生活不活発病(廃用症候群)
国試で問われる用語

病気・障害・意欲低下などで動かない状態が続き、過度の安静によってあらゆる身体・精神的機能が低下した状態のこと。具体的な症状は、全身の筋力低下・筋萎縮、関節拘縮、褥瘡、骨粗鬆症、起立性低血圧、便秘、便・尿失禁、静脈血栓症、知的・心理的障害など。移動能力や意欲がさらに下がり長期臥床が続く悪循環に陥る。予防のためには、移動が困難でもできるだけ移動の機会をつくり、臥床を持続させないことが基本になる。

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Q1. 生活不活発病(廃用症候群)の説明として、最も適切なものはどれ?

正解はA。生活不活発病は、動かないこと(過度の安静)が続いて全身の身体・精神機能が低下した状態で、筋力低下・関節拘縮・褥瘡・起立性低血圧などが起こります。予防はむしろ「移動の機会をつくること」なのでBは逆。特定の病気がなくても、動かないだけで誰にでも起こり得るためCも誤りです。

Q2. 転倒・転落リスクの要因分類として、適切なものはどれ?

正解はB。加齢による筋力・バランスの低下や感覚機能の低下は、本人のからだの中にある内的要因です。段差・滑りやすい床(A)は環境側の外的要因、起立性低血圧(C)は本人のからだの内的要因なので、それぞれ分類が逆になっています。内的要因は変えにくく、外的要因は環境整備で減らせるのが観察・対応のポイントです。

Q3. 移動における医療職との連携について、適切なものはどれ?

正解はC。身体能力や適切な移動手段・介助量は医師や理学療法士に、予後に合わせた生活課題はケアマネジャーに確認し、専門職と連携して判断します。身体能力の判断を介護職が単独で決めるAは不適切。先回りの過剰介助はかえって残存機能を低下させ意欲を失わせるため、Bも誤りです。
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