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こころとからだのしくみⅡ・人間の心理 Lesson 1
01

人間の欲求

利用者の「〜したい」が、ケアの出発点

人はなぜ行動するのか。動機づけという原動力から、A.H.マズローの欲求5段階説、基本的欲求と社会的欲求・欠乏欲求と成長欲求の区分、自己概念、そして自己実現と生きがいまでを、国試で答えられる形に整理。

「食べたい」「トイレに行きたい」「役に立ちたい」——その一つひとつが人間の欲求。欲求のしくみを知ることは、利用者の意欲を支える介護そのものです。

アテナ様の導き

人は、なんらかの欲求をもって行動しています。欲求を満たそうとする心の原動力が動機づけ——すなわち「やる気」や「意欲」ですわ。A.H.マズローは、人の欲求を5段階の階層として整理しました。下から順に、生理的欲求・安全・安定欲求・所属・愛情欲求・承認欲求・自己実現欲求。低い段階が満たされると、より高い段階の欲求へと心は伸びていくのです。人間らしく生きたいという願いのしくみを知れば、利用者の「〜したい」を支える手が見えてきますわ。

アテナ様の導き(本音モード)

マズローは机上の理論じゃありません。現場そのものです。お腹が空いて眠れない人に「趣味を楽しみましょう」と言っても届かない——下の欲求が満たされて初めて上が育つから。だから介護はまず生理的・安全の土台を整える。そのうえで「ここに居ていい」「あなたが必要」と所属・承認を返し、最後に「自分らしく生きたい」という自己実現=生きがいを支える。利用者の「〜したい」を消さないことが、いちばんのケアなんです。

1枚でつかむ:マズローの欲求5段階説
下(土台)から満たされ、上へ伸びていく
1

生理的欲求

食欲・性欲・睡眠欲など生命維持そのものにかかわる欲求。5つの中で最も基本的・本能的で、どの欲求よりも優先される。

2

安全・安定欲求

生理的欲求の上層。これも生命維持のため。危険にさらされない平穏な暮らしを無意識に求める。

3

所属・愛情欲求

家族・地域・会社・学校といった集団に受け入れられ、帰属したいという欲求。ここから社会的欲求。

4

承認欲求

集団の一員として自分の存在を認めてもらいたい・尊敬されたいという欲求。

5

自己実現欲求

自分の能力を最大限に発揮し、自分らしさを追求したいという欲求。頂点にある成長欲求。

1. 欲求と動機づけ
人はなぜ行動するのか

人間は多様な欲求や動機をもって生活しています。人は欠乏を埋めるために、何かしらの行動を起こします。それが動機づけされた行動です。動機づけとは、行動を起こしたり継続させたりする背景にある原動力のことで、一般的に「やる気」や「意欲」に相当します。A.H.マズローは、人の欲求を体系的に整理し、5段階の階層として捉える「欲求5段階説」を示しました。

キーワードは動機づけ=やる気・意欲。人は「欠けているものを埋めたい」から動く、これが行動のエンジンです。介護でいえば、利用者が動かない・食べない・話さないとき、「わがまま」ではなくどの欲求が満たされていないのかを考えるのがプロ。土台の欲求(お腹・眠り・安心)が欠けたままだと、やる気は湧きようがないんです。

動機づけは「やる気」「意欲」に相当する原動力。欠乏を埋めるための行動が動機づけされた行動、と押さえる。

2. 欲求5段階説と2つの分類
基本的欲求/社会的欲求・欠乏欲求/成長欲求

マズローの5段階は、まず基本的欲求社会的欲求に分けられます。生理的欲求安全・安定欲求の2つが基本的欲求。所属・愛情欲求から自己実現欲求までの3つが社会的欲求です。基本的欲求は普遍的で、人間を含めた動物すべてが生きるために必要な本能的な欲求。満たされないと生命の危険を感じ、強いストレスや不安を覚えます。基本的欲求が満たされると、他者に受け入れてもらいたいといった、より人間らしい社会的欲求が生じます。

● 基本的欲求 vs 社会的欲求

区分含まれる欲求特徴
基本的欲求生理的欲求/安全・安定欲求(下位2つ)人間を含む動物すべてに共通する普遍的・本能的な欲求。生命維持にかかわり、満たされないと強いストレスや不安を覚える
社会的欲求所属・愛情欲求/承認欲求/自己実現欲求(上位3つ)他者とのかかわりの中で生じるより人間らしい欲求。基本的欲求が満たされた後に現れる

もう一つの分け方が欠乏欲求成長欲求です。「生理的欲求」から「承認欲求」までは、外部の物や人によって満たされるもの。十分に満たされると緊張から解放されるため、欠乏欲求とよばれます。欠乏欲求が満たされると「自己実現欲求」が出現します。これは自己充足的なことから成長欲求ともよばれます。

● 欠乏欲求 vs 成長欲求

区分含まれる欲求満たされ方
欠乏欲求生理的欲求〜承認欲求(下位4つ)外部の物や人によって満たされる。十分だと感じられると緊張から解放される
成長欲求自己実現欲求(最上位)自己充足的。達成するとさらに新たな自己実現の欲求が生まれる

分類の境界に注意。基本的/社会的の境は安全・安定欲求と所属・愛情欲求の間、欠乏/成長の境は承認欲求と自己実現欲求の間。ズレやすいポイント。

3. 5段階ピラミッド(模式図)
各段階の位置と2つの区分をひと目で

5段階はピラミッド型で描かれることが多く、下ほど基本的・優先度が高い欲求です。左側に欠乏欲求/成長欲求、右側に基本的欲求/社会的欲求の区分を重ねると、2つの分け方の関係が整理できます。

生理的欲求 安全・安定欲求 所属・愛情欲求 承認欲求 自己実現欲求 欠乏欲求(外部で満たす) 成長欲求 基本的欲求 社会的欲求

下から生理的→安全・安定→所属・愛情→承認→自己実現。右の区分=下2つが基本的欲求/上3つが社会的欲求。左の区分=下4つが欠乏欲求/頂点の自己実現だけが成長欲求。(オリジナル模式図)

4. 自己概念と尊厳
自分をどう捉えるか/2つのアイデンティティ

自己概念とは一人称として用いられるもので、他人がいてはじめて自己として認識されます。「自分が誰で、どんな人間か」を意識する概念です。自己概念に影響を与えるものは、大きく2つに分けられます。

個人的アイデンティティ

自分自身に関するもの。身体・精神面での発達や老化、社会や環境への適応など。とくに脳の老化に着目すると、知能・記憶力・判断力など。

社会的アイデンティティ

自分自身以外のことによるもの。他者・環境・文化・社会など、自分を取り巻くものによる影響。

自己概念はライフステージごとの身体・精神状況や、取り巻く環境・社会の状況の組み合わせで影響を受け、形成される。老年期は喪失体験の一方で経験が蓄積され、人格が円熟・調和し、自己実現への接近も可能になる。

5. 自己実現と生きがい
成長欲求が生きがいにつながる

自己実現の欲求は、欠乏欲求が満たされることで生じる成長欲求です。自己実現したいということは、自己の才能・能力・可能性を十分に活かし、自らを完成させ、理想の実現に向けて最善を尽くそうとすることを求めます。これが生きがいにつながります。自己実現欲求はすべての人が達成できるわけではありませんが、達成できなくてもこの欲求をもつことで自己を成長させることができるとされています。自己実現を達成した人は、自由な思考をもち、自己中心的にならず、現実を受けとめ、精神的に成熟した人格を獲得するといわれます。

ここが介護のいちばん大事なところ。「もう歳だから」「できないから」で欲求にフタをしないこと。自己実現は「特別な偉業」じゃなく、その人が自分らしく暮らし、自分の人生を自分で決めること。人が一生を通して個人として尊重され、自分らしく暮らせるのは誰もが望むこと。周囲からも個人として尊重される社会をつくる——それが介護職の仕事の芯です。達成そのものより、「〜したい」をもち続けられるように支えることに意味があります。

WORD:自己実現
国試で問われる用語

欠乏欲求が満たされることで生じる成長欲求のこと。自己の才能・能力・可能性を十分に活かし、自らを完成させ、理想の実現に向けて最善を尽くそうとする欲求で、マズローの欲求5段階説の最上位(頂点)に位置する。内容は人それぞれ異なり、自己充足的であるため、達成するとさらに新たな自己実現の欲求が生まれる。これが生きがいにつながるとされる。関連語に動機づけ(行動の原動力=やる気・意欲)、自己概念(自分が誰でどんな人間かを捉える一人称の概念)がある。

試験に出るところ
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Q1. マズローの欲求5段階説を、低い段階から高い段階へ正しく並べたものはどれ?

正解はB。下(土台)から順に、生理的欲求 → 安全・安定欲求 → 所属・愛情欲求 → 承認欲求 → 自己実現欲求。最も基本的・本能的な生理的欲求が最下段、自己実現欲求が最上位(頂点)です。

Q2. 基本的欲求と社会的欲求の区分について、適切なものはどれ?

正解はB。基本的欲求=下位2つ(生理的欲求・安全・安定欲求)で、人間を含む動物すべてが生きるために必要な普遍的・本能的な欲求。社会的欲求=上位3つ(所属・愛情欲求・承認欲求・自己実現欲求)で、他者とのかかわりの中で生じる人間らしい欲求です。AとCは区分が逆・誤り。

Q3. 欠乏欲求・成長欲求と自己実現に関する記述で、適切なものはどれ?

正解はC。自己実現欲求は自己充足的な成長欲求で、達成できなくても欲求をもつこと自体が自己成長につながるとされます。Aは誤りで、自己実現欲求は成長欲求(欠乏欲求は生理的〜承認欲求の4つ)。Bも誤りで、動機づけは行動を起こす・継続させる原動力(やる気・意欲)であり、欲求と深く結びついています。
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