こころのはたらきは、脳が生み出しています。神経細胞(ニューロン)とシナプスの情報伝達、大脳皮質の機能局在(前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉)、海馬と扁桃体の役割、そして記憶の3段階(記銘・保持・想起)と保持期間による分類(感覚・短期・長期記憶)、学習のしくみまでを、国試で答えられる形に整理。
「何度言っても覚えてくれない」——でも、昔から続けてきた動作はスッとできる。その差はどこから来るのか。記憶のしくみを知ると、認知症の方への声かけが変わります。
喜び、悲しみ、怒り——こうした感情も、覚えることも忘れることも、すべては脳のはたらきから生まれています。神経細胞(ニューロン)がシナプスを通じて情報をやりとりし、大脳皮質の各部位がそれぞれの役割を分担する。海馬は記憶を、扁桃体は感情を司ります。そして記憶は、覚えて(記銘)・保ち(保持)・思い出す(想起)という道すじをたどり、感覚記憶から短期記憶、長期記憶へと選ばれて残っていくのです。こころを理解する第一歩として、この脳と記憶の理(ことわり)を、いっしょに解きほぐしていきましょう。
現場で「さっき言ったのにもう忘れてる」ってこと、ありますよね。あれ、本人がサボってるわけじゃなくて、短期記憶が長期記憶に移らない——脳のしくみの問題なんです。一方で、手続き記憶(からだで覚えた動き)は最後まで残りやすい。だから、言葉で説明するより「いっしょに手を動かす」ほうが伝わることがある。認知症ケアで「なぜこの声かけが効くのか」の答えが、この記憶の分類に全部つまっています。暗記じゃなく、目の前の人を理解する道具として持っていきましょう。
細胞体・軸索・樹状突起からなる。接触部=シナプスで神経伝達物質を介し情報を伝える。
大脳皮質は前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉に分かれ、部位ごとに役割が異なる。海馬=記憶、扁桃体=感情。
見たり聞いたりした情報を入力する。まず感覚記憶として、ごく短時間だけ保持される。
意識した情報が短期記憶へ。反復(リハーサル)すると一部が長期記憶に移り、長く残る。
保持した情報を必要に応じて出力する。想起できて初めて「覚えている」といえる。
人間の反応は、一連の過程を脳が判断し、脳が指令を出していることで生まれます。喜び・悲しみ・怒りといった感情は大脳辺縁系のはたらきと関係し、海馬は記憶や学習で、扁桃体は情緒学習で大切な役割を担います。神経組織は、情報の伝達・処理・蓄積をおこなう神経細胞(ニューロン)と、それを支え栄養を届けるグリア細胞からできています。
ざっくり言うと、こころ=脳のはたらき。「気持ち」も脳が作っているんです。ここで押さえたいのは役割分担。海馬=記憶の係、扁桃体=感情の係。これ試験でも現場でも効きます。認知症で特に傷みやすいのが海馬で、だから「新しいことが覚えられない」が起こる。仕事するのがニューロン、それを裏で支える裏方がグリア細胞——このセットも地味に問われます。
神経細胞(ニューロン)は、細胞核のある細胞体、細胞体から伸びる1本の長い軸索(神経線維)、細胞体から突き出した複数の樹状突起からできています。軸索は興奮(電気信号)を末端へ送り出し、樹状突起はほかの神経細胞や感覚器からの信号を受け取ります。神経細胞どうしの接触部をシナプスとよび、そのすきま(シナプス間隙)では神経伝達物質を介して情報が伝わります。
神経線維を電気信号が伝わることを伝導、シナプス間隙を化学物質(神経伝達物質)が介して伝えることを伝達と区別する。神経伝達物質にはアセチルコリン・ドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニンなどがある。
脳の表面部分を大脳皮質とよび、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉の4つに分けられます。知覚・随意運動・思考・記憶などの高次機能をつかさどる司令塔で、部位によって受け持つ役割が異なることを機能局在といいます。
| 部位 | 主なはたらき | 国試ポイント |
|---|---|---|
| 前頭葉 | 精神活動・運動中枢。思考、判断、意欲、性格などにかかわる | 下方に運動性言語野(ブローカ野)。障害されると理解はできても話せない失語症に |
| 頭頂葉 | 感覚認知中枢。身体からの感覚情報を集め、外界を認識する | 前頭葉との境に中心溝。後方の中心後回=体性感覚野 |
| 側頭葉 | 聴覚中枢。言語・記憶・視覚・聴覚にかかわる | 上部に感覚性言語野(ウェルニッケ野)。障害されると音は聞こえても言葉として理解できない |
| 後頭葉 | 視覚中枢。目からの情報を処理し形・色などを認識 | 4つの脳葉の中で最も小さく最も後方。視覚野がある |
前頭葉と頭頂葉の境の中心溝より前が中心前回=運動野、後ろが中心後回=体性感覚野。運動の命令は延髄で左右が交叉するため、右の運動野は左半身を、左の運動野は右半身を支配する。
海馬は側頭葉の内側にあり、記憶の保持にかかわります。海馬が障害されると記憶の保持が難しくなり、すぐに忘れてしまいます。扁桃体は感情の形成にかかわり、興奮すると恐怖心・悲しみ・不安の感情が起こります。前頭前野はこの扁桃体を制御し、理性的な状況判断を担います。
記憶とは、日常の体験や認知したものを蓄えていく脳の重要なはたらきです。記憶する過程は、覚える記銘(入力)→忘れずにしまっておく保持(貯蔵)→必要に応じて思い出す想起(出力)の3つの段階に分けられます。また、保持できる期間によって、記憶は次の3つに分類されます。
| 種類 | 保持時間の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 感覚記憶 | 視覚で長くて約1秒/聴覚で長くて約4秒 | 感覚器官に保持される記憶。膨大な刺激がまずここへ。意識された情報だけが短期記憶へ、されなかった情報は消失 |
| 短期記憶 | 数十秒〜数分 | 脳内で短時間だけ保持。時間とともに消失するが、反復(リハーサル)で保持時間を延ばせ、一部が長期記憶へ移る |
| 長期記憶 | 数か月〜数年(長期間) | 大量の情報を長く保持する安定した記憶。容量に制限はないとされる。短期記憶の多くは忘却され、一部だけが残る |
なんらかの作業をおこなうために、ある情報を短時間だけ覚えておく記憶をワーキングメモリ(作業記憶)とよぶ。短期記憶と関連の深い概念。
| 大分類 | 種類 | 内容・例 |
|---|---|---|
| 陳述記憶 (言語で思い起こせる) | エピソード記憶 | 個人が経験した出来事の記憶。例:昨日の夕食を「どこで・誰と・何を」食べたか |
| 意味記憶 | 知識や常識などの記憶。経験の繰り返しで形成され、いつ・どこでの付随情報は消え、内容だけが残る | |
| 非陳述記憶 (からだで覚えた記憶) | 手続き記憶 | 運動・知覚・認知の技能や習慣。例:自転車の乗り方。一度形成されると自動的にはたらき、長期間保たれる |
| プライミング | 以前の経験が、後の経験に関する処理を促進する現象。再現されやすくなる記憶 |
3つの記憶は、情報が選ばれながら次の段階へ移っていく流れとして理解できます。感覚記憶に入った膨大な刺激のうち、意識されたものだけが短期記憶へ。短期記憶で反復(リハーサル)されたものの一部が長期記憶へ移り、長く安定して残ります。反復されなかった情報は忘却されていきます。
外部の刺激は、まず感覚記憶へ。意識された情報だけが短期記憶に移り、リハーサル(反復)されたものの一部が長期記憶として安定して残る。反復されない情報は忘却されていく。※教科書の図を写したものではなく、しくみを整理したオリジナル模式図です。
学習とは、経験によって獲得される永続的な「行動の変容」をいいます。同じ行動の変化でも、経験によらない成熟・老化による変化や、病気・外傷・薬物による変化は学習とはいえません。直接体験が学習に強く影響するモデルとして、古典的条件付けと道具的条件付けが代表的です。
パブロフの犬の実験が有名。ベルの音とエサの提示を繰り返すと、ベルの音だけで唾液が出るように。ある条件が示されただけで反応が起こる。
スキナーが発見。レバーを押すとエサが出る箱で、ネズミが「押すとエサが出る」と学習。自らの行動の結果によって学習が進む。
長期記憶のうち非陳述記憶に分類される、からだで覚えた技術や習慣に関する記憶。自転車の乗り方やパズルの解き方のように、同じ経験を反復することで形成され、いったん形成されると自動的にはたらき、長期間保たれる。認知症で言葉での記憶(エピソード記憶など)が失われても、手続き記憶は比較的残りやすいとされ、なじんだ動作をいっしょにおこなう関わりが有効になる背景でもある。
Q1. 記憶の分類について、最も適切なものはどれ?
Q2. 記憶の保持と過程に関する記述で、適切なものはどれ?
Q3. 脳の部位とはたらきに関する記述で、適切なものはどれ?