藤田静江さん(79歳)の事例で、ICF整理→課題明確化→計画→評価の流れを実践する。
脳血管性認知症は「まだら」と「感情失禁」が特徴。残された力を最大限に活かす介護過程を組む。
今日からは事例で学ぶ介護過程ですわ。ここでは藤田静江さん(79歳・女性・要介護2)に登場いただきます。脳血管性認知症と高血圧を抱えながら、一人暮らしを続ける藤田さん。「お風呂が好き」「娘に負担をかけたくない」という思いを、介護過程でどう支えるか──。実在の人物ではなく、教材用のオリジナル事例です。
脳血管性認知症(VaD)は、アルツハイマー型と進行の仕方が違うのがポイント。アルツハイマー型はジワジワ低下するけど、脳血管性は階段状(脳卒中ごとにガクン)。そして「まだら認知症」──できることとできないことが混在しますの。これは「できる部分」を活かす介護過程と相性◎。藤田さんの強みを引き出しながら、入浴という「楽しみ」を守るのが今日のテーマですわ。
生活歴:かつて市内で茶道教室の先生を30年以上続けてきた。地域に弟子も多く、季節ごとのお茶会が生きがいだった。70歳で教室を閉じてからも、来客にはお茶を点てていた。お風呂が好きで、若い頃は娘とよく温泉に出かけていた。
家族:夫は10年前に他界。娘が1人いるが、隣市で仕事をしており平日は来られない。週末に通って介護をしているが、娘自身も変形性膝関節症を発症して負担が増している。
発症の経緯:2年前に軽い脳梗塞を発症して入院。退院後しばらく経った頃から、物忘れと感情の起伏が目立つようになり、もの忘れ外来を受診した結果、脳血管性認知症と診断された。
脳卒中(脳梗塞・脳出血)などにより脳の血管に障害が生じ、認知機能が低下する認知症。日本では認知症全体の約2割を占め、アルツハイマー型に次いで多い。
| 項目 | 脳血管性認知症(VaD) | アルツハイマー型認知症(AD) |
|---|---|---|
| 進行 | 階段状(脳卒中ごと) | 緩徐・進行性 |
| 症状の出方 | まだら認知症(できる/できない混在) | 全般的に低下 |
| 病識 | 保たれやすい | 初期から失われやすい |
| 感情 | 感情失禁あり | 比較的安定(初期) |
| 神経症状 | 麻痺・嚥下障害合併が多い | 基本的に伴わない |
| 原因 | 脳血管障害 | アミロイドβ蓄積など |
| 予防 | 生活習慣病管理で再発防止可能 | 確立された予防法なし |
① 血圧管理:脳卒中再発予防が認知症進行を防ぐカギ。入浴時のヒートショックに特に注意。
② 感情失禁を受容:泣いたり感情が爆発したとき、それを否定せず受け止める。
③ 「できる部分」を見極める:まだら認知症だからこそ、できることは本人にしてもらい、自信を保つ。
サービスの利用状況:平日は配食サービス(安否確認込み)。訪問介護で入浴介助を週2回開始。手すり設置済み、シャワーチェア・浴槽用手すり・バスボードを福祉用具で購入済。
藤田さん:「週2回くらいはお風呂に入りたい」「娘に負担をかけたくない」「段差が怖い」「お風呂の椅子が低くて立ち座りできない」「もっとゆっくり温まりたい」
娘さん:「母はお風呂が好きですが、私が思うように手伝えなくて」「敷居でつまずいて今も足が痛そう」「血圧が高めなので40℃まで・10分くらいに」「トイレが間に合わずおもらしすることがあり、臭いも気になる」「外出は不安、お金の支払いがうまくできない」
気になる言動:「家にいるほうが楽」「着替えなければ洗濯も楽」(活動性低下+清潔保持の意欲低下)
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 健康状態 | 脳血管性認知症/高血圧/要介護2 |
| 心身機能・身体構造 | つかまれば自力で立てる/杖(T字杖)歩行可/会話スムーズ/《機能障害》 認知症によるまだらな物忘れ・感情失禁・ふらつき・段差つまずき・尿失禁あり |
| 活動 | 杖で居室内歩行/洗濯掃除は自分でおこなう/《活動制限》 着替えをあまりしない/入浴時は娘の介助/低い椅子では立ち座り困難 |
| 参加 | かつて茶道教室の先生/温泉好き/《参加制約》 転倒不安で外出減/支払いに不安/外出意欲低下/地域との交流が途絶 |
| 環境因子 | 自宅で一人暮らし/週末に娘の介護/配食サービス/福祉用具設置済 |
| 個人因子 | 79歳・女性/お風呂好き/茶道の素養/几帳面な性格 |
総合的な援助の方針:転倒の不安を少なくし、好きなお風呂をゆっくり楽しめるよう支援する。身じたくをスムーズに行えるようにし、身ぎれいにして地域との関わりを取り戻し、藤田さんらしい在宅生活が続けられるよう支援する。
| 情報 | 解釈・関連付け・統合化 | 解決すべき課題 |
|---|---|---|
| ①つかまり立ち・杖歩行可だがふらつき・段差つまずきあり ②入浴時は娘の介助、1週間入浴できていない ③娘の膝負担 ④「週2回はお風呂に入りたい」 ⑤血圧高めで湯温を低く | 福祉用具を活用して安全性と自立度を上げ、娘の介護負担も軽減する必要。脳血管性認知症はまだらなので、できる部分は本人に。ヒートショック対策が必須。 | 転倒の不安を減らし、ゆっくり温まる入浴ができるよう環境を整える |
| ⑥トイレに間に合わず尿失禁あり ⑦汚れたズボンを着替えない ⑧脱ぎ着に時間がかかり同じズボンを着続ける | 清潔保持の意欲が低下。脳血管性認知症の意欲低下+病識から「迷惑をかけたくない」が裏返って「動かない」になっている可能性。 | トイレにスムーズに行け、着替えがスムーズにでき、清潔を保持できる |
| ⑨洗濯物を干すのが大変で増やしたくない ⑩「寝たきりになる」と転倒を恐れて外出せず ⑪支払いに不安 | 運動不足で廃用が進む恐れ。感情失禁+病識から外で失敗することを恐れている。茶道の素養を活かせる場があれば意欲回復のきっかけに。 | 外出の機会を増やし、筋力低下と社会的孤立を防ぐ |
長期目標(期間:6か月):転倒の不安をなくし、安全に、好きなお風呂をゆっくり楽しむことができる。
| 短期目標 | 期間 | 具体的な援助の内容・方法 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| ① 浴室・浴槽の出入りがスムーズにできる | 3か月 | 浴室床の滑り確認、身体を支える。入浴グリップ・バスボードを活用し、必要に応じて介助。段差は声かけ+同伴。 | 週2回 |
| ② 好きなお風呂にゆっくりつかれる | 1か月 | 湯温は40℃以内、入浴時間10〜15分。入浴剤で温泉気分を演出。脱衣室から声かけし、血圧・脈拍・表情を確認。 | 週2回 |
| ③ シャワーチェアで自分で髪と身体を洗える | 3か月 | シャワーチェアに座り、できる部分は本人に。まだら認知症の「できる部分」を見極めて尊重。手の届かない部分のみ介助。 | 週2回 |
脳卒中既往+高血圧の藤田さんはヒートショック高リスク。①脱衣室と浴室をあらかじめ暖める/②湯温40℃以内/③入浴前後の血圧測定/④入浴時間10〜15分以内/⑤食直後・飲酒後の入浴は避ける。これらは認知症の進行予防にも直結します。
| 実施状況 | 評価 |
|---|---|
| 訪問介護員が平日週2回、入浴介助を実施。脱衣室と浴室の段差確認+手すり活用で出入りの負担減。入浴グリップ・バスボード・シャワーチェアの福祉用具を活用。藤田さんがお湯につかっている時は、脱衣室から定期的に声をかけ、血圧と表情を確認。入浴剤を導入して温泉気分を再現。 | 福祉用具の活用で、藤田さんが「自分でできること」が増え、娘の介護負担も軽減。入浴剤で「温泉に行った気分」と笑顔が増え、感情失禁の頻度も減少傾向。血圧は40℃管理で安定。「お風呂上がりが気持ちいい」と発言。「迷惑をかけている」という訴えも減少。計画は継続し、湯温・時間の管理を続けながら、次は外出機会の確保(茶道つながりの地域活動)を検討。 |
「できなかった」だけでなく、「今日はここまでできた」を必ず記録。脳血管性認知症はまだら=日によって変動するので、長期的な傾向で評価。1日の不調で計画を一気に変えないのがコツですわ。
入浴前後の血圧測定。脱衣室・浴室を温め、湯温40℃以内、10〜15分以内。食直後・飲酒後の入浴は避ける。脳卒中再発予防が認知症進行を止める。
急に泣き出したり笑ったりしても否定せず受け止める。「お辛いですね」と気持ちに寄り添う。感情失禁は本人が一番つらいので、責めない・なだめすぎない。
まだら認知症だからこそ、「今日はここをご自分で」と一つずつ確認。シャワーチェアに座って自分で洗えた、を成功体験として積み重ねる。
夜間せん妄予防のため、日中の活動量確保・規則正しい起床就寝。配食サービスの時間に合わせた生活リズムを支える。
茶道の素養という強みを活かす。お茶を点てるリハ的活動、茶道教室の元教え子との再会など、参加と意欲の回復に繋げる。
娘さんの変形性膝関節症と介護負担に配慮。福祉用具で物理的負担を減らし、レスパイト(短期入所)等の活用を提案。
Q1. 脳血管性認知症の特徴として最も適切なのはどれか?
Q2. 脳血管性認知症のある藤田さんの入浴介助で、最も優先度が高いリスク管理はどれか?
Q3. 「まだら認知症」の介護過程として最も適切な対応はどれか?
Q4. 感情失禁が出やすい藤田さんへの対応として最も適切なのはどれか?