大原さきさん(71歳)の事例で、術後+廃用症候群の介護過程を組み立てる。
術後は「脱臼予防」が最優先。廃用症候群対策は「動かさないと一気に落ちる」を防ぐ生活設計。
事例2は大原さき(おおはら さき)さん(71歳・女性・要介護2)。大腿骨頸部骨折を契機に介護老人保健施設でリハビリ中、自宅復帰を希望されています。術後の脱臼予防姿勢と、寝たきりで進む廃用症候群対策──この2軸を同時に成り立たせる介護過程が求められますわ。実在の人物ではなく、教材用のオリジナル事例ですの。
大腿骨頸部骨折は「寝たきりへの入口」と言われるほど怖い。骨折そのものより寝てる間に進む廃用症候群が本体ですわ。「動かさない=筋肉・関節・骨・心も衰える」。だからこそ介護過程の核は「安全に動かす設計」。脱臼予防+早期離床+心理サポート=3点セット。これがプロの腕の見せどころ。
生活歴:40年間小学校教師として勤め、教え子も多い。退職後は趣味の手芸と俳句を楽しみ、地域の俳句サークルに毎月参加していた。家事も自分でこなしてきた。
家族:夫(74歳)と二人暮らし。娘が1人いるが県外で商売を営んでおり、月1回程度の電話と週末面会。
発症の経緯:4か月前、自宅の和室で布団を片付けていた際に転倒し、右大腿骨頸部骨折。救急搬送され、後方アプローチによる人工骨頭置換術を実施。術後の急性期病院で2週間、回復期リハビリテーション病棟で1か月入院。リハビリ継続のため介護老人保健施設に入所して2か月が経過。自宅復帰を強く希望している。
現在の状況:体温36.0〜36.5℃、血圧130/80mmHg、骨粗鬆症あり。リハビリでサークル歩行器を使った歩行が可能になったが、夜間は寝つきが悪く、起床時にふらつきあり。「家に帰りたいけれど、また転んだら娘に申し訳ない」と発言、活気が落ちて食欲もやや低下気味。
高齢者の転倒で最も多い骨折のひとつ。骨粗鬆症が背景にあり、軽微な転倒でも起こる。手術は人工骨頭置換術か骨接合術。後方アプローチの人工骨頭置換術では、術後の脱臼予防が最重要。
患側股関節の 「過度の屈曲 + 内転 + 内旋」 の組み合わせが脱臼リスクです。
股関節を90度以上曲げない。低い椅子に深く座らない
足を内側に組まない。横向きで脚を交差させない
つま先を内側に向けない。立位で膝を内側に捻らない
・床に座らない(畳の生活なら高めの椅子に変更)/ ・低い便座を避ける(補高便座を使用)/ ・靴下を履くときは患側を組まない(靴下エイドや長柄リーチャー活用)/ ・横向きに寝るときは脚の間にクッション
長期の安静・不活動により、全身の機能が低下する状態。骨折・脳卒中・手術などをきっかけに、寝たきりの悪循環で進行します。「動かさない」と2週間で約20%の筋力低下が起こると言われ、高齢者では回復に時間がかかります。
筋力低下/関節拘縮/骨粗鬆症進行/変形
起立性低血圧/心機能低下/誤嚥性肺炎リスク/浮腫
食欲不振/便秘/褥瘡/低栄養
抑うつ/意欲低下/認知機能低下/睡眠障害
「動けない → 筋力が落ちる → さらに動けない → 食欲が落ちる → 体力が落ちる → 意欲が落ちる」というスパイラル。一度ハマると抜け出すのが難しいので、「動かす機会を作り続ける」のが介護過程の核になりますわ。
・移動:自力で仰臥位から端座位になれる。サークル歩行器で歩行可能だが、歩き始めにふらつきあり見守りが必要。
・身じたく:歯磨き・洗面は自立。上衣は自分で着脱、下衣は手すりを使って慎重に。靴下は長柄リーチャー使用。
・食事:自助具を使って自力摂取。最近食欲が落ちて全量摂取できない日がある。
・排泄:補高便座のトイレで一部介助。夜間はポータブルトイレを使用。
・入浴:施設の機械浴と一般浴を併用。週2回。
・コミュニケーション:会話は問題なし。だが入所後、表情が暗くなり自発的な会話が減った。
・家族の発言:娘「母には自分らしい生活を取り戻してほしい」、夫「自宅で待っているが、自分も持病があり介護負担が心配」。
「家に帰りたいです」「でも、また転んだら娘に申し訳なくて」「家事は自分でしてきたから、何もできなくなるのが怖い」「俳句の会の友人にまた会いたい」「夫の食事も自分で作ってあげたい」
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 健康状態 | 右大腿骨頸部骨折(人工骨頭置換術後)/廃用症候群/骨粗鬆症/要介護2 |
| 心身機能・身体構造 | 右人工骨頭置換/会話・聴覚問題なし/《機能障害》 患側下肢の筋力低下・関節可動域制限・脱臼禁忌姿勢への注意必須/起立性低血圧傾向/睡眠障害 |
| 活動 | サークル歩行器で歩行可/端座位自立/上衣の着脱可/自助具で食事自立/《活動制限》 歩き始めのふらつき/靴下着脱に補助具必要/低い椅子・床への動作不可 |
| 参加 | かつて小学校教師・俳句サークル所属/《参加制約》 自宅・地域活動から離れた施設生活/自発的な会話減少/抑うつ傾向 |
| 環境因子 | 介護老人保健施設にリハビリ目的で入所中/夫と二人暮らしの自宅/娘は県外/自宅は和室中心(要改修) |
| 個人因子 | 71歳・女性/几帳面・責任感強い/元教師(教える立場の経験)/趣味は手芸・俳句 |
総合的な援助の方針:夫の暮らす自宅に安全に戻れるよう、脱臼予防と廃用症候群対策を両立させる。俳句仲間との再会を励みに、活気と笑顔を取り戻し、大原さんらしい在宅生活への復帰を支援する。
| 情報 | 解釈・関連付け・統合化 | 解決すべき課題 |
|---|---|---|
| ①サークル歩行器で歩行可だが歩き始めにふらつき ②夜間の睡眠の質が悪い ③起立性低血圧傾向 ④「また転んだら申し訳ない」 | 術後脱臼予防と転倒予防を両立させた歩行訓練が必要。夜間の睡眠改善が起床時ふらつきにも繋がる。自信を取り戻すことが在宅復帰の前提。 | 転倒・脱臼を予防しながら、安全に歩行と移動ができる |
| ⑤食欲低下・全量摂取できない日あり ⑥自発的な会話が減少 ⑦活気低下 | 廃用症候群+抑うつ傾向のサイン。俳句・手芸という強みを活かして意欲回復のきっかけを作る必要。 | 意欲と活気を取り戻し、趣味活動を通じて自己効力感を回復する |
| ⑧自宅は和室中心 ⑨夫も持病あり ⑩在宅復帰希望 | 自宅復帰には住宅改修(手すり・段差解消・補高便座等)と、夫の介護負担軽減策(訪問介護等)の準備が必要。 | 安全に在宅生活を再開できる環境を整える |
長期目標(期間:6か月):夫の暮らす自宅に安全に戻り、俳句サークルや手芸を通じて活気のある在宅生活を再開する。
| 短期目標 | 期間 | 具体的な援助の内容・方法 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| ① 脱臼禁忌を守りながら、サークル歩行器で安全に歩行できる | 2か月 | 歩行訓練前に禁忌姿勢の確認(屈曲+内転+内旋を避ける)。歩き始めは立位静止5秒+手すり把握確認。起立性低血圧予防に体位変換ゆっくり、水分摂取促す。 | 毎日 |
| ② 食欲を取り戻し、活気のある生活リズムを作る | 2か月 | 俳句サークルの手紙交換・手芸活動を施設レク内で実現。日中の活動量を増やし、夜間の睡眠を整える。食事は本人の好む味付け・盛り付けを家族から情報収集して調整。 | 毎日 |
| ③ 在宅復帰のための住環境を整える | 3か月 | ケアマネ・住宅改修担当・家族と連携。段差解消・手すり・補高便座・椅子座位の生活に切り替え。夫への介護指導とレスパイト(短期入所)活用も計画。 | 適宜 |
| 実施状況 | 評価 |
|---|---|
| 毎日のリハビリ前に脱臼禁忌姿勢の確認を実施。歩行器歩行は5分以内のふらつきが減少。手芸サークルを施設内で立ち上げ、俳句仲間からの手紙交換も実現。住宅改修プラン作成中で、補高便座と玄関手すりは設置済。食事の盛り付けを家族の情報をもとに調整したところ、全量摂取の日が増えた。 | 歩行は「ふらつきあり」から「見守りで安定」へ。手芸活動を始めてから表情が明るくなり、夜間の睡眠改善。「俳句の友達からまた便りが来た」と笑顔。食欲も回復。住宅改修の進捗を家族と共有することで「自分で帰れる」という自己効力感が戻り始めた。計画は継続し、次は在宅復帰の試泊と夫の介護指導を中心に進める。 |
後方アプローチの3禁忌「屈曲90度以上+内転+内旋」を全スタッフで共有。靴下は長柄リーチャー、立ち上がりは患側を組まない、寝るときは外旋枕。
「動かさない=悪化」を全員で意識。離床時間を毎日少しずつ伸ばす。深呼吸・体位変換・関節可動域訓練を日課に。低栄養と起立性低血圧を見逃さない。
「端座位→立位→歩行器→杖」と段階的に。2週間で20%筋力低下を意識し、休む日があってもベッドに留まらない工夫。
「家族に申し訳ない」「また転ぶのでは」という不安を傾聴。小さな達成を一緒に喜び、「できた経験」を蓄積。教師の経験を活かして他入居者に「教える」役割も。
和室中心→椅子座位の生活に切り替え。段差解消・手すり・補高便座・滑り止め。介護保険の住宅改修費を活用。動線を確認して転倒予防。
夫も持病があり介護負担懸念。訪問介護・通所リハ・短期入所を組み合わせ、夫の負担分散。家族会議で介護分担を可視化。
Q1. 大腿骨頸部骨折・人工骨頭置換術(後方アプローチ)後に避けるべき股関節の動きの組み合わせとして最も適切なのはどれか?
Q2. 廃用症候群の予防として最も適切な介護方法はどれか?
Q3. 大原さんの在宅復帰を支援する計画として最も適切なのはどれか?
Q4. 抑うつ傾向のある大原さんの意欲回復に最も寄与する関わりはどれか?